février 16, 2008
門田隆将『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』
2004年、一人の高校教師が60歳で亡くなった。
彼は並外れた長打力を誇る即戦力のプロ野球選手と期待されて南海ホークスに入団したが、プロ1年目に怪我をしてしまい、大した成績を残せず、わずか5年でプロ野球選手を引退することになった。
しかし当時の野村克也・選手兼任監督により、28歳で打撃コーチに抜擢される。
以後30年に渡り、打撃コーチとして7球団を渡り歩いて何人もの名プレイヤーを育て上げた。
50代に入ってからはコーチを務める傍ら、大学の通信課程で学び、5年かかって58歳で教員免許を取得。
千葉ロッテマリーンズの打撃コーチを最後にプロ野球の世界を離れ、59歳にして高校教師に転身する。
彼の夢は、高校生に野球を指導して全国高等学校野球選手権大会――「甲子園」で優勝すること。
だが、プロ野球出身者は、退団後2年間は高校生に野球を指導することを禁止されている。
禁止期間が明けるまで、一高校教師として生徒の指導にあたった彼は、生徒たちの心を掴んでいった。
しかし禁止期間が明けないまま、彼は膵臓癌に倒れ死去。
夢は果たされぬままに終わったのである。
彼の名は、高畠導宏。
球界随一のアイデアマンとして、ユニークなトレーニング法を数多く考案したが、私が彼の名を覚えたのも、新聞で彼のユニークなトレーニング法が取り上げられているのを読んだからだ。
そのトレーニング法というのは、バットを振るときの腰の回転を正しく身につけるために、自分の一物をブラブラさせて腿に当てるイメージを抱いてバットを振るというものであった。
残念ながら女性には使えないトレーニング法である。
その後高校教師に転身するも夢半ばで亡くなったことも、新聞で読んだ。
そして彼の晩年がドラマ化されることも、新聞で読んだ。
NHK の土曜ドラマ『フルスイング』。
その原案となった本ということで読んだのが、門田隆将著の『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』である。
本書では、高畠導宏の少年時代から死去するまでの生涯を軸にしつつ、往年のプロ野球の裏側も語られる。
サイン盗みの横行。
野村克也解任騒動。
ただの守備要因だった水上善雄の打撃を向上させ、レギュラーに育てたこと。
新人時代の西村徳文を付きっ切りの猛練習でスイッチヒッターに転向させたこと。
自分が成功した方法を押し付けるコーチが多い中、高畠は独自の野球理論を持ちながらもそれを押し付けることをせず、選手一人一人に応じた指導法を実践したという。
若き日の落合博満についても、その性格を汲んで口出しをすることを殆どせずに彼の流儀を尊重し、大打者への道を開いた。
また、親身かつ情熱的にプレイヤーたちと付き合い、能力を発揮できるように様々な気配りを行ったエピソードが本書では紹介されている。
さながら、コーチングのお手本集のようである。
現役プレイヤーでも、コーチ生活の晩年に指導を受けた田口壮、小久保裕紀、サブロー、福浦和也など、彼を慕う主力級のプレイヤーの証言が記され、彼の優れた人柄が伺える。
読み進めているうちに、大久保博元を打撃コーチに据えた埼玉西武ライオンズの来シーズンが絶望的に思えてきてしまった。
いや、 TV での顔しか知らないから、コーチとしては優れた能力を持っている可能性がないとは言えないが……少なくとも高畠ほど野球に対する眼力と人徳があるようには見えない。
教育実習期間を含めてわずか1年少々の教員生活だったが、同僚の教員にも、生徒たちにも高畠は一目置かれていたらしい。
大学を出て学校という狭い世界で時間を重ねてきた教員には持っていないものを持つ者として、高畠の存在感は大きかった。
30年間、いつクビになるとも知れないプロ野球の世界で生き残ってきた高畠が心に抱き続け、病に冒されてもなお教壇に立ち、生徒たちに伝えようとしたのは「氣力」の二文字だった。
気軽に使われがちで、時に人を誤った方向へ導く言葉だから私は好きではない。
気力を持てるかどうかというのも人の資質によるものだ。
しかし持てるタイプの人間についてならば、その人間を最終的に左右するのは気力に違いないだろう。
高畠導宏という人の生き様は、それを体現したものだった。
本書はプロ野球ファンが読むと特に楽しめると思うが、人に何かを教える立場にある人や挫折を経験して落ち込んでいる人にも何かしらヒントを与えてくれることだろう。
「偉人伝」という呼び名がふさわしい一冊である。
投稿者 Dormeur : 10:02 PM | コメント (2) | トラックバック
août 06, 2007
読んだ本 2007.8.6
2006年の初春くらいに読んだ本。
玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』(中公文庫)
20代から30代の若年層が直面している労働問題を、様々な統計データを元にして論じた本。
そこで明らかにされているのは、中高年が優遇される労働政策、雇用慣行の実態だ。
「パラサイト・シングル」「フリーターの増加」は必ずしも精神論に帰せられるものではないことを著者は示す。
さらに定年延長がもたらす問題、転職にまつわる問題、所得格差、仕事内容の格差、成果主義の問題と、様々に問題点が指摘されていく。
その中で若年層が目指すべき道は何か、というと、著者によれば「自営業者になること」だそうだ。
本書のうち一章が自営業についての論考について割り当てられており、その末尾は「若年雇用者問題の将来は、若者が『自分が自分のボスになりたい』と思うかどうかにかかっている」という一文で締めくくられている。
ルドルフ・ヘス『アウシュビッツ収容所』(講談社学術文庫)
アウシュビッツ強制収容所の所長として、収容所の建設、収容者の大量虐殺を実行したルドルフ・ヘスの告白録。
ひたすら冷静に、仔細に彼の経歴と務めてきた仕事が語られる。
忠実に任務をこなそうとするクソ真面目な公務員の姿がそこにはある。
自分も収容所に入れられた経験があるし、収容者を虐待・虐殺したくなかったけど、資材や食料が足りないのに無茶な命令で収容者ばかり増えるし、総統からの殺せという命令だったんで仕方なかった……という論調は、公務員の悲哀が感じられて共感・同情する部分もあるけど、結局自己正当化だよなあ。
何より、被害者への謝罪の気持ちが全然現れていないのが問題だ。
とはいえ、ナチスが隠蔽しようとした強制収容所の実態と、「残忍だったり嗜虐的だったり頭のおかしかったりする人物でなくても、人は大罪を犯すことができる」という事実を示した点で、人類史に残すべき重要な一冊といえることは間違いない。
D・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』(河出文庫)
平凡なイギリス人の主人公のもとに、ある日突然工事業者がやってくる。
業者いわく、立ち退き期限が過ぎたので、道路建設のために強制的に家を取り壊す、と。
そんな工事は知らないと抗議していると、友人が現れ彼を連れ出す。
友人いわく、立ち退き期限が過ぎたので、銀河バイパス建設のために間もなく地球が強制的に消滅させられる、と。
友人の正体は、宇宙人向けの旅行ガイドブック『銀河ヒッチハイクガイド』を改訂するため地球にやって来た宇宙人だった。
友人の手で地球を脱出し、地球最後の生き残りとなった主人公は、訳が判らないまま無理矢理宇宙を放浪することになる。
小ネタ的ギャグが満載で、笑いながら「イギリスのコメディ TV 番組っぽいセンスだなあ」と思って読んでいたが、それもそのはず、作者はイギリスのコメディ TV 番組の制作に携わってもいた。
本書読了後、2005年制作の映画版の DVD を買って観たけど、面白さは原作には及ばない。
バカバカしい小説で爆笑したいと言われたら、オススメする一冊だ。
ちなみに本作には、コンピュータに「人生、宇宙、すべての答え」を答えさせるという有名なナンセンス・ギャグがある。
本作へのオマージュ的ジョークとして、「人生、宇宙、すべての答え」で Google 検索すると本作同様の答えが出てくることはファンには有名な話。
酒見賢一『語り手の事情』(文春文庫)
奇書、である。
舞台はヴィクトリア朝時代のイギリス。
メイドあるいは執事のような仕事をしているが、あくまで自らを「語り手」と称する謎の女性が語る物語。
彼女はある時は性に対する妄想を抱いた少年の筆下ろしを行い、ある時は女性になりたいと妄想する紳士をサポートして、妄想力で彼の肉体を女性に変化させる。
またある時は性奴隷を求めてやって来た SM マニアの男の前で降霊会を行い、依代となった少女に SM 行為をさせる。
傍観者のようにただ「語って」いた彼女だったが、かつて筆下ろしを行い今や青年となった男がサキュバスに犯されたのに際して、身を投じて彼と交わり彼を助け、彼とともに異空間へと去っていく。
フェティッシュな性談義、性行為が次々と描かれていくので、こりゃエロ小説かと思いもするけど、人間の肉体をもっと見ろ、本来備えている「性」の力というものをもっと見ろ、と著者は言いたいのかもしれない。
あとがきで著者が言うのは、これは「恋愛小説」だそうな。
で、結局「語り手」って何?
浅田次郎『椿山課長の七日間』(朝日文庫)
映画化もされた新聞小説。
映画の方は未見。
突然死した中年オヤジが主人公。
家族に別れを告げるため、天国から舞い戻ってくる。
ただし与えられた時間は7日間、肉体は全く別人の美女のもの。
自分の正体を明かすことはルール違反。
主人公が天国で同席した、同じく現世に未練のあるヤクザの組長、男の子も、生前とは正反対の姿と性格で現世に戻され、現世でやり残したことを果たそうとする。
そして彼らは、自分の人生がどのようなものであったのかを知ることになる。
その中には知りたくないものも、知っておかなければならないこともあった……。
「素晴らしき哉、人生!」的な作品。
しかし最後の最後で、主人公の父親である爺さんのたどる結末が……あれがなけりゃ、ハッピーエンド、大団円めでたしめでたし、だったのに。
楽しんで読んでただけに、味噌をつけられた感じ。
投稿者 Dormeur : 09:04 PM | コメント (0) | トラックバック
août 05, 2007
読んだ本 2007.8.5
2006年の初春くらいに読んだ本。
宮部みゆき『人質カノン』(文春文庫)
いわゆる「日常の中のミステリー」を描いた短編集。
「円紫師匠」とか「猫丸先輩」みたいな全編共通の探偵役がおらず、それぞれの話の主人公が自力で真相を探り当てるのがちょっと目新しかった。
宮部みゆきがこういう短編も書ける人って知らなかったな。
古橋秀之『ある日、爆弾がおちてきて』(電撃文庫)
あとがきで作者自身が言及しているけど、「時間の流れ」をテーマにした短編集。
ストーリーは「高校生くらいの普通の少年の前に、変な少女が現れて、恋心が絡む」というライトノベルにありがちな構成で統一されている。
青春を感じさせる明るい雰囲気の作品群の中で「恋する死者の夜」という一編が異彩を放っていて印象深かった。
死んだ人間がゾンビ化して生前の行動を繰り返すようになっている世界で、主人公は病弱な少女と出かけた「一日限りのデート」を少女の死後も繰り返し、世界の緩慢な死に身を委ねる……というお話。
あと、最後の一編「むかし、爆弾がおちてきて」の設定は広島・長崎の被爆者や関係者には怒りを買うかもしれないけど、秀逸なアイデアだと思う。
ライトノベル入門の一冊として好適かも。
谷川流『絶望系 閉じられた世界』(電撃文庫)
谷川流といえば『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズで有名だが、これは毛色の違うアプローチの「セカイ系」作品。
主人公の友人の家に、突然天使と悪魔と死神と幽霊が現れる。ひとまず主人公は、自分の名前しか思い出せない幽霊の青年の素性と死因を探っていくのだが……。
天使や悪魔や死神や幽霊が居る世界のシステムが存在するなら、そんな世界そのものが狂っているのではないか、狂った世界では狂人こそがまともなのではないか……という着眼点で物語が作られている。
荒唐無稽な設定で、主人公もヒロインも狂っているが、一種の思考実験としては面白い。
描かれた狂気をフィクションとして楽しめるだけの免疫を備えてからじゃないと読んではいけない。
長森浩平『タイピングハイ! さみしがりやのイロハ』(角川スニーカー文庫)
物語の舞台は人口減少により都市コロニーごとに人が住むようになった近未来の世界。
主人公はハッカーの少年。
彼は伝説的ハッカー「レムス」の情報を受け、違法な AI 研究をしているという名門学園に生徒として不正入学する。
早々に不正入学は明らかになるが、顔を隠した謎めいた生徒会長に呼び出され、限られた生徒だけが進むことのできる「 AI 養成コース」に進むことを要望される。
さらに学園内にいる「アリエル」という名の迷子の少女を探し出すことを依頼される。
果たして「レムス」の情報の真偽は、生徒会長と「アリエル」の正体は……というお話。
表紙のイラストこそロリコン調の少女3人が描かれているだけだが、中身はよく出来た SF。
人に教えられなかったら、まず読んでなかったと思う。
それにしても作者の名前の元ネタはやはり『 ONE 』なのだろうか……。
笹生陽子『きのう、火星に行った。』(講談社文庫)
斜に構えてクールぶっている小学6年生の少年を主人公におき、彼と彼をとりまく少年たちの成長を描いた短編。
熱く燃えていく主人公の疾走感が気持ちいい。
字が大きくペラペラなので、主人公同様の、ちょっとませた小学生が背伸びして読むのもよさそう。
滝本竜彦『 NHK にようこそ! 』(角川文庫)
大学を中退しアパートに引きこもる青年、佐藤を主人公にした青春小説。
彼の前に清楚な少女「岬ちゃん」が現れ、彼を「ひきこもり」から救い出そうと言う。
そんな彼女をあしらい、自力で「ひきこもり」から脱出しようと奮闘する佐藤だが、挫折してばかり。
佐藤は岬と契約し、彼女のサポートを受けることになる。
しかし岬の行動には、内に秘めた本当の目的があった……。
オタク男やネットサーフィンの描写が「作者自身の実体験でなくちゃここまで書けないだろう」というほど秀逸で、共感を誘われる。
地の文でも、持ち出してくる言葉や文章のセンスが尋常でなく私にジャスト・フィットしてきて、ニヤニヤしてしまう。
ご近所の見慣れた風景がテレビ放送で映し出されているのを観たときに何故か喜んでしまうのと同じような感覚があるのだ。
少なくとも私にとっては、ずっと保管しておきたい本。
マンガ版は無理にストーリーを引き伸ばしている感があってグダグダだけど、原作はすっきり綺麗にまとまっている。
アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』(創元推理文庫)
ロンドンで毒入りチョコレートによる毒殺事件が発生する。
一体犯人は誰なのか?
事件は警察から「犯罪研究会」に持ち込まれ、会員6人が1人ずつ真相の推理を披露していくことになる。
もっともらしいと思わされた推理は新事実とともに次々と覆っていく。
そして6人目の会員がついに真相にたどり着く……。
アイデアといい、6つの異なる視点を用意する力量といい、感心するばかり。
「古典的名作」の評判に偽りなし。
投稿者 Dormeur : 11:36 PM | コメント (2) | トラックバック
décembre 11, 2006
2006年に読んだマンガ 2006.12.11
岩岡ヒサエ『ゆめの底』(宙出版)
本屋で表紙を見て何かピンと来るものがあったのでジャケ買い。
結果大当たり。
眠りについた少女がふと気づくとコンビニエンスストアの前に居た。
そこは夢のできるところ。
生の世界と死の世界の狭間にあるこの場所に、いくつもの思いがやって来ては去っていく。
丸っこくてぷにぷにしててキュートでありながら、繊細で軽い独特のタッチ。
枠線以外定規を使わないことから生まれているのだろう、心地よい酩酊感がある。
まったりほっこりできるファンタジーだ。
こうの史代『さんさん録』(全2巻、アクションコミックス)
主人公は定年を過ぎて妻に先立たれた初老の男、参平。
自分の家を引き払い息子一家とともに暮らすことになった彼は、荷物の中から一冊のファイルを見つける。
それは亡き妻が参平に残した生活ノートだった。
そのノートを読んで家事を学び実践する参平と一家の日々を描いた作品。
シリアスな展開でしんみりさせておいて毎回オチをつける、こうの史代お得意の匠の技を堪能できる。
ついでに生活の知恵も学べて非常にお得。
こうの史代にハズレなし。
五十嵐大介『リトル・フォレスト』(全2巻、ワイド KC アフタヌーン)
主人公のいち子は、街の生活をやめて東北地方のとある村、小森に帰り一人暮らしをしている。
畑を耕し作物を育て、料理をして食べる。
手間はかかるし不便だけど、その生活の何と豊かに見えることか。
作中で描かれる料理の模様を読むたび口に唾が湧いてきて、自分も田舎で暮らしたくなる。
しかし農村での暮らしは甘いものではないことも教えてくれる。
五十嵐大介の他の作品世界とは少々毛色が違ってイメージや超自然の世界が展開されることはないけれど、彼の中には「人間は自然から恵みを受け取って生きている」という自然への崇敬がベースにあって、その崇敬の部分を抽出して展開したのがこの作品なんだと思う。
読んで大満足するとともに、買ったきり読まずに1年放置してたのを後悔した。
五十嵐大介のマンガはよくわからん、と言う人でもエッセイマンガの気分で読めるはず。
火事で焼けてももう一度買いなおしたいと思うお気に入りの一作。
志村貴子『どうにかなる日々』(全2巻、F COMICS)
志村貴子の作品はキャラクターの無表情の表情であったり、ぼけーっとした表情だったりが生み出す「静止」の感覚とゆるい雰囲気が特徴的。
この『どうにかなる日々』はそんな雰囲気で淡々と恋愛模様描かれる、一話完結の短編集。
面白いとかつまらないとかではなくて、志村貴子だなあとしか言えない。
投稿者 Dormeur : 11:23 PM | コメント (0) | トラックバック
décembre 10, 2006
2006年に読んだマンガ 2006.12.10
山川直人『コーヒーもう一杯』(第1巻-第2巻、ビームコミックス)
コーヒー豆を買ってきてコーヒーを淹れる習慣ができた私がタイミングよく出会った一作。
市井の人々のエピソードの中にコーヒーがある。
コーヒーのようにほろ苦く、コーヒーのように香りたち、コーヒーのように温かい連作短編集。
絵は全て手書きでかっちりと書き込まれていて、スクリーントーンは使われていない。
デフォルメされたキャラクターや記号は今時珍しく懐かしいタッチ。
木版画のようでもあり、コミカルで温かみがある。
昔読んだ永島慎二の『フーテン』を思いだした。
外薗昌也:作、別天荒人:画『ガールフレンド』(第1巻、ヤングジャンプ・コミックス)
外薗昌也が原作やってるやん、ということで買ってみた。
1エピソード完結の短編集だ。
シリアスな学園ラブストーリーを描こうとしているけど、どうにも居心地の悪さを感じる。
童貞的、オタク的妄想が拭いきれてなくて痛々しいというか気恥ずかしいというか。
あとがきを読むと外薗昌也にも自覚があるみたい。
成長して『 BOYS BE... 』に物足りなくなった人向けか。
ヤングジャンプがターゲットとしている読者層の需要にはマッチしているんじゃないかな。
別天荒人の描く女の子は爽やかさのなかにちょっと色気があってなかなか可愛い。
平野博寿『ガールガールボールシュートガール』(第1巻-第2巻、ヤンマガ KC)
珍しい女子サッカーものマンガ。
女子高校のサッカー同好会で細々と活動していた主人公、香織の前に、梅澤という寡黙なクール・ビューティーが現れる。
天才的なサッカー技術を身に着けている梅澤を部に招き入れ、ついに11人揃ったサッカー同好会。
サッカー部を設立し大会に出場することを目指して男子サッカー部に交流試合を申し込む。
梅澤を中心に実力を見せつけサッカー部設立を認められた彼女たちだったが、女子サッカーの強豪選手たちがその前に立ちはだかる……。
掲載雑誌がヤングマガジンということもあってキャラクターはみな美少女ぞろいで巨乳ぞろい。
無駄に胸や太ももや下着を見せる描写が多いのもやり過ぎの感が否めない。
だけど本筋のストーリーはなかなか熱い。
現実感はないけど、マンガと割り切れば楽しめる。
青木和雄・吉富多美:原作、オ・スギル:画『コミック ハッピーバースデー』(上下巻、金の星社)
児童書として書かれ文芸書版、アニメ版もあるベストセラー『ハッピーバースデー』のマンガ版。
原作は未読。
ストーリーは児童虐待といじめをテーマにしたもの。
11歳の誕生日に母親から「生まなきゃよかった」と言われたことをきっかけに、主人公の少女あすかは声が出なくなってしまう。
あすかと違い両親の期待を受けていた兄は当初あすかをバカにしていたが、あすかが心を閉ざして廃人同然になってもなお彼女を邪険に扱う母親の態度を見て失望。
田舎に住む祖父母のもとにあすかを預けることにする。
祖父母の愛情と自然に包まれて、あすかは心を開くようになり声と元気を取り戻す(上巻)。
学校に復帰したあすかだったが、クラスではいじめがはびこっていて、担任教諭もいじめに加担しているような有様だった。
あすかはいじめに立ち向かい、養護学校の少女との出会いと別れを通じて成長していく。
自分と正面から向き合い反抗する子供たちの姿を見て、あすかの両親も自分の非を受け入れるようになる。
12歳の誕生日、あすかは皆から祝福を受けるのだった(下巻)。
というわけでいかにも感動的なストーリーなわけだけどマンガとしての出来はよくない。
長い台詞が詰め込まれて説明的・演説的になってしまう場面が多く、読んでていちいちひっかかってしまう。
ページの制約がきつかったのかもしれない。
編集者はマンガ編集のプロではないように見受けられる。
マンガ雑誌の編集者ならネームを見てすぐ手直しさせるだろう。
長台詞の洪水の中で「みんないい人」になってしまう強引な展開には押し付けがましさと胡散臭さを感じてしまい、素直に受け入れられない。
マンガを担当しているのは韓国人だが、絵に若干の固さを感じるものの日本マンガの技術をしっかり自分のものにしている。
あすかのキャラクターデザインにもそこそこの「萌え」がある。
横書き(洋綴じ)マンガである点には違和感があるかもしれない。
ところで、上巻の帯には「100万人が泣いた」とあり下巻の帯には「120万人を泣かせ、癒した」とある。
上下巻の刊行は1ヶ月しか空いてないのに増えすぎ。
そんなに売れたんかなあ。
投稿者 Dormeur : 10:54 PM | コメント (0) | トラックバック
juillet 07, 2006
2005年に読んだマンガ 2006.7.7
さそうあきら『神童』(全3巻、双葉文庫)
『のだめカンタービレ』の前に読んでおこうと思ってたのに後回しになってしまった。
言わずと知れた……って知らない人の方が多いかもしれないけど、1999年文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞作。
名門音楽大学を目指しピアノの練習に励む主人公の青年、和音はある日、少年野球のピッチャーを務める小学生の少女に出会う。
快活で野球好きな彼女、成瀬うたは実は、類まれなピアノの才能を持つ天才少女だった。
うたの助力を得て主人公は見事志望大学へ進学。
うたもまた、音楽界の表舞台へと躍り出てその才能を世間に知らしめていく。
そのままうたは順調に国際的スターに成長すると思いきや、終盤は衝撃的な展開に。
そして物語は大団円を迎える。
『のだめ』の音楽描写に心が高揚してしまう人なら是非オススメ。
福島聡『6番目の世界』( BEAM COMIX )
90年代初頭、著者のマンガ家駆け出し時代の作品と近作を収めた短編集。
その一作『 UFO 』は山口県で少年に妻子を殺されて、夫が少年を死刑にしろと言ってるアレを思い起こさせます。
福島聡『 DAY DREAM BELIEVER again 』(全2巻、BEAM COMIX)
「モーニング」に連載されて打ち切りになった作品を完結させたもの。
博物館に勤める25歳の女性、日下部霞。
彼女は夜には体を売る仕事をしていたことがバレてしまい、博物館を辞めさせられてしまう。
そんな彼女にはクビに月型の「刻印」があった。
ある日、彼女のもとに同様の「刻印」を持った男二人が現れる。
彼らは超能力者で、その力を生かして旅をしながら犯罪を重ねて生きてきた。
霞は彼らの計略にひっかかり、自身の能力に気づかされ、家を捨てて彼らとともに旅に出る。
霞の能力とは、人が封印していた記憶を実体化させるというものだった。
一方、彼らが起こす不可解な事件に興味を持ったある雑誌記者が調査を始める。
そして霞と記者が出会ったとき、二人が封印していた記憶が蘇る。
結局二人はどうなったのか。
流される血は実体化された記憶、タイトルが示すように白昼夢なのか。
境界が曖昧なまま、物語は閉じられる。
ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』(第5巻、アフタヌーン KC )
夏の大会初戦が始まった。
しかし1巻で3回の表までしか行ってない。
しかも月刊連載。
ライフワークにするつもりなのか。
あびゅうきょ『晴れた日に絶望が見える』(バーズコミックススペシャル)
黒いベールで全身を覆った独身無職38歳のオタク男、「影男」。
絶望の中、町を彷徨う彼は不思議な女性たちに出会い、罵倒されていく。
作者が彼に示した救済は、身体を捨て魂を「靖国」に一体化することだった。
自虐とペシミズム、軍事オタクの精神に偏執的な描き込みがもたらす空間の迫力が魅力的な短編「影男」シリーズが半分。
残り半分は、女主人公が活躍する戦記もの短編。
妻を娶れず戦士として戦うこともできない男の人生に価値はなく絶望のみがある。
そして女は強く美しく、絶望独身男性は脆弱で醜い……という思想の徹底ぶりには清清しさすら覚える。
これは掘り出し物だわ。
作者の Web サイトに掲載されている文章も面白い。
あびゅうきょ『あなたの遺産』(バーズコミックススペシャル)
あびゅうきょという人は1980年代から細々とマンガを描いていたらしい。
まだ日本が絶望感に侵食されておらず、主人公の少女の無垢性に若い作者が希望を託していた時代の戦記もの短編集が本書。
第二次世界大戦時、アメリカ軍のB29により行われた日本空襲は、日本の神官の要請のもとで行われた破壊と再生の儀式だった――という凄い解釈が登場する。
絵柄が80年代してて懐かしいが、やはり偏執的な描き込みが特徴的。
あびゅうきょ『絶望期の終わり』(バーズコミックススペシャル)
再び「影男」シリーズである。
『晴れた日に絶望が見える』で靖国神社にたどり着き「死の拠り所」を見つけた影男だったが、国に殉じる手段もなければ教育も受けていない現代の絶望男性には「俗世」にも「死の拠り所」にも居場所はないと作者は言う。
そして影男は俗世と靖国神社の間を彷徨い続けるのだ。
作中、愛知万博の廃墟で「人類の死と絶望」をテーマに行われる万博「死・絶望博」の皮肉と悲観には大笑いするとともに切なくなった。
石川雅之『もやしもん』(第1巻―第2巻、イブニング KC )
世界初か、細菌をテーマにしたマンガ。
種麹屋の息子、直保は蔵元の息子、蛍とともに上京し、農業大学に入学する。
直保には細菌が肉眼で見えるという特殊能力があった。
祖父の紹介で細菌の研究を行っている樹教授と知り合った直保は、その能力を見込まれ研究室に出入りをさせられるようになる。
樹教授だけでなく先輩たちも癖のある連中ばかり。
そんな中で展開する直保の学生生活が描かれていく。
可視化された細菌たちのデザインと会話がコミカルで可愛い。
そしていかに細菌が我々の生活に満ちているか勉強になる。
細菌により人間にもたらされた恩恵の一つに酒があるが、作中に登場する酒が何よりうまそうだ。
酒好きには是非おすすめ。
ちなみにこの作品で紹介された地酒「龍神丸」、そして同じ蔵元でこの作品をきっかけに限定発売された純米吟醸生酒「かもすぞ」は注文が殺到して入手不可能。
投稿者 Dormeur : 11:10 PM | コメント (2) | トラックバック
juillet 06, 2006
2005年に読んだ本 2006.7.6
溜めすぎ。
倉知淳『猫丸先輩の空論』(講談社ノベルス)
毎度おなじみ、日常ミステリを猫丸先輩が鮮やかに解いてみせる。
その一編「子猫を救え」はちょっと萌え要素あり。
由紀草一『団塊の世代とは何だったのか』(洋泉社新書 y )
「団塊の世代」のライフステージの背景となった時代風俗を追い、彼らがその時代にどのように振舞ったのか、その足跡を辿っていく。
サラリーマンとしての「団塊の世代」について、『島耕作』と清水義範の『柏木誠治の生活』を引き合いに出し対比させて論じているのが面白かった。
鹿島茂『オール・アバウト・セックス』(文春文庫)
「性」に関する書物の書評コラムを単行本化したもの。
鹿島先生、商売が手広いですな。
書評を読むだけで「性」の奥深さにおなかいっぱい。
沖田雅『先輩とぼく4』(電撃文庫)
乗りかかった船ってことで、買い続けているシリーズの続刊。
この巻は夏のイベントの回。
花火大会、海水浴、無人島。
沖田雅『先輩とぼく5』(電撃文庫)
この巻は学園祭の回。
学園祭で「ぼく」は男装し「先輩」は女装する。
男性の自分が女性の先輩を愛し、女性の先輩が男性の自分を愛する、という可能性は肉体が入れ替わってしまったがために失われてしまった(シリーズ1巻)。
その失われた可能性をかりそめに復活させるとともに、決別を図ろうという試みである。
佐々淳行『連合赤軍「あさま山荘」事件』(文春文庫)
当時の現場指揮官だった著者の視点から事件の裏側を描いていく。
映画にもなった実録モノ。
作者含め事件解決に尽力した人々の功績を訴えたい気持ちは伝わってくるし、頭も下がるのだけど、年寄りに若い頃の手柄話、自慢話を聞かされているような感じが否めない。
東野圭吾『放課後』(講談社文庫)
東野圭吾のデビュー作となる密室ミステリー小説。
物語の語り手は、とある女子高に勤める男性教師。
東野圭吾というと淡々とした文体というイメージがあるけど、本作の主人公が感情が乏しい人間という性格設定だからか、やはり淡々とした文体。
不審な出来事に次々と襲われ、主人公は自分が何者かに命を狙われていると思うようになる。
そんななか、教員用更衣室で同僚の男性教師が殺される。
しかしその部屋は密室だった。
さらに体育祭の真っ最中に別の同僚の男性教師が殺されてしまう。
作中のとある箇所の描写を誤読してて、実はその誤読が密室トリックそのものだったのだけどそのままスルーしてしまっていた私。
自分の頭の悪さを再確認。
この殺人事件の「動機」については評価が分かれそう。
21世紀の学園では精神文化が変わってしまってて、この「動機」を抱いたとしても同様の殺人計画を立案実行することは困難じゃなかろうか。
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mars 06, 2006
2005年に読んだマンガ 2006.3.6
Amazon.co.jp の「この本を買った人はこんな本も買っています」を元に突撃してみるキャンペーン。
榛名まお『ぱわまゆ』(バンブー・コミックス)
ペットショップを営む姉の下で働く女の子、まゆを主人公に据えた4コママンガ。
作者名が個人的に懐かしい。
CG とペン画では印象が違いますな。
言っちゃあ悪いが何の変哲もない作品で、そのまま歴史の中に埋もれてしまうことでありましょう。
絵柄は可愛いし、つまらなくはないんだけど。
いずみ『ちょこパフェ』( 全2巻、まんがタイムコミックス)
パティシエになることを夢見る洋菓子屋の娘と、その同級生の和菓子屋の娘ら小学生の少女たちの日常を描いた4コママンガ。
最近流行の「萌え4コマ」という奴ですな。
どこかで見た絵柄だなーと思ったら、『貧乏姉妹物語』と同じ作者だった。
そこそこ毒のあるギャグと可愛い絵柄ってことで、萌え重視の人にはまあまあ悪くないのでは。
湖西晶『かみさまのいうとおり!』(第1巻、まんがタイムきららコミックス)
生徒の信仰する宗教を最大限尊重するという高校に通う少女たちの日常を描いた4コママンガ。
キリスト教の安倍まりあ、神道の鳥居くりこ、修験道の山伏実希代がメインキャラクター。
安倍まりあはすぐにエロい想像をしてしまい鼻血を噴出してしまうという設定で、ソフトな下ネタが多い。
さしずめ「萌えみこすり半劇場」といったところ。
それを面白いと思うかどうかは読者次第。
萌え4コママンガ雑誌「まんがタイムきらら」の看板作品らしい。
小箱とたん『スケッチブック』(第1巻‐第2巻、BLADE COMICS )
個人的に「大当たり引いた!」感あふれ大満足。
4コママンガでは今私が最もオススメする作品。
「月刊コミックブレイド」に2002年から連載中。
作品の舞台は北九州にあると思われる高校。
妙にゆったりペースな女子高校生、梶原空が入部した美術部は、彼女を含め個性的な部員揃い。
そんな彼女たちの日常を描いている。
4コママンガとして注目したいのは「間」の使い方が秀逸なこと。
『あずまんが大王』以来の感覚だ。
では学園4コママンガという点でポスト『あずまんが大王』となり得る作品か、というとちょっと趣が異なる。
あずまきよひこほどキャッチーな絵柄ではないし、女性の身体的特徴をネタにすることがない。
キャラクター性から取り出されるのは成分として萌えよりもギャグが強い。
本作では比率は少なめとはいえ男子部員も登場する。
共学校であるにも関わらず男子生徒を意図的に排除し、楽園的世界を構築していた『あずまんが大王』とはここでも違いがある。
本作が優れているのは、日常生活のちょっとした事柄を掬い上げてネタにするそのセンスだ。
その着眼点には「あるある!」と共感を誘われること間違いない。
また、作者は生き物についても造詣が深いようで、生物・植物ネタが数多く披露される。
それはしばしば登場人物が住む町に残る自然の風景に見出されるもので、作品世界に土のにおいと広がりをもたらしている。
これもまた、作者が切り出してみせる「日常」の一つの側面と言える。
作品傾向として二次創作という形で消費しづらいため、オタクの世界にブームを巻き起こすということはないだろう。
しかし口コミでじわじわ売れ行きを伸ばしていくタイプの作品だと思う。
荒井チェリー『三者三葉』(第1巻‐第3巻、まんがタイムきららコミックス)
真面目なメガネっ娘に見えるが腹黒い葉山てる。
明朗な性格で底なしの食欲を持つ小田切双葉。
大金持ちのお嬢様だったが今や没落し一人貧乏生活、クラスでは孤立している西川葉子。
氏名に「葉」のつく女子高生仲良し三人組の日常を描いた萌え系4コママンガ。
メインの3人のキャラクターが立っている。
人気が高そうなのはやはり「葉子様」だろうか。
お嬢様の言動を残しつつ健気に現実と戦うギャップが笑いを誘う。
絵柄は可愛らしくまとまっているし、ギャグも毒が効いている。
萌え系4コママンガの中ではオススメできる作品だ。
大井昌和 『風華のいる風景』(第1巻、まんがタイムきららコミックス)
4コママンガではなく、短編ストーリーマンガ。
表紙の絵の少女が「風華」なのだが、タイトルに名前があって更にカバーイラストに大きく少女の絵が描かれていれば彼女がヒロインであろうと誰しも思うはず。
しかし彼女はヒロインではない。
ストーリーには殆ど絡んでこず、街の通行人として一瞬現れるだけに過ぎない。
確かにそこにあり、人の心に影響を及ぼすこともあるが、大抵は通り過ぎるだけの風のような存在。
そういう意味では『風華のいる風景』というタイトルは正しい。
そんな風景のもとに登場人物が織り成す人情話を描いた作品。
ハートフルストーリーって奴ですな。
袴田めら 『最後の制服』(第1巻、まんがタイムきららコミックス)
これも短編ストーリーマンガ。
とある女子高の寮、1つの部屋に2名が割り当てられ生活する少女たち。
言葉にすることはないものの、彼女たちは同室の少女に友情を越えた好意を抱いている。
それぞれの秘めた思いが、ゆるやかに綴られていく。
ぶつかり合ったり、傷つけあったりすることなく、ひたすら密やかにしみじみと。
少女幻想、それもまたよし。
投稿者 Dormeur : 11:26 PM | コメント (0) | トラックバック
février 28, 2006
2005年に読んだマンガ 2006.2.28
ざちお『はねむす』(ダイトコミックス)
Web 上で連載されているマンガ『はねむす』を単行本化したもの。
Web なら無料で読めるから別に買わなくてもよかったんだけど、やはり本って形の方が読みやすい。
本書には第7話まで収録されている。
19世紀末か20世紀初頭のヨーロッパの田舎を思わせる村に住む一人の男のもとに、7歳の少女がやってくる。
彼女は彼の知己らしい「教授」と呼ばれる人物からの手紙を持っていた。
その手紙を読んだ彼は、父親として彼女を育てることにする。
「るり」と言う名のその少女の背中には、鳥のような翼があった。
そんな人間は、その村では「はねむす」と呼ばれ老人たちの信仰の対象になっているらしい。
とは言え、るりは普通の女の子と変わりない。
るりと彼女を温かく見守る人々の姿が、ほのぼのと描かれていく。
いやあ、るりは可愛いわ。
なんかこう、いじくりまわしたくなりますな。
しかしそういうことを口に出すと危険人物と思われる世知辛い世の中です。
きづきあきら『ぼくのためのきみときみのためのぼく』( Seed ! comics )
ぺんぎん書房が倒産したと知り、きづきあきらの既刊を急いで入手しようと試みたものの店頭在庫を入手できたのはこれだけだった。
古書でもプレミアムがついた値段になってます。
本書は同人誌で活動していた時代のきづきあきらの初期短編作品を集めたもの。
近親姦、主従関係、フェティシズム、ストーキングなど、少し歪んだ様々な性愛が描かれている。
センスの良さはビンビン感じるけど、切れ味は近作と比較するとちょっと鈍めかな。
魚喃キリコ『 blue 』( MAG COMICS )
7年間ずっと読もう読もうと思って果たせずにいたけど、やっと読んだ。
そのうち1年間は買ってから行方不明になっていたのだが……。
海に面した地方都市の女子高。
そこに通う桐島カヨ子は、同級生の遠藤雅美に恋をする。
心を通い合わせたり、傷つけたり、傷ついたり。
少女たちの特権的な一季節を切り取った物語。
背景は極力省かれ真っ白。
そこに精密な切り絵のようなシンプルな描線の平面的な人物が配置されて、少女たちの織り成す不器用で、儚くて、美しい心模様が静かに綴られていく。
画面に吸い込まれそうでちょっと怖くもあるけれど、名作ですな、これは。
比嘉富子, みやうち沙矢『白旗の少女』( BETSUFURE KCDX )
あまりにも有名な実話『白旗の少女』をマンガ化したもの。
1945年4月、激戦地となった沖縄で、家族とはぐれてしまった7歳の少女富子。
米軍に、あるいは味方であるはずの日本兵に住民が次々と殺されていく凄惨な光景の中、彼女は戦場を一人彷徨い生き抜いていく。
オチが分かってるのにクライマックスで目に涙。
この手の演出には弱いのよ私。
少女マンガ方面の絵柄で描かれる戦争ものってところで違和感はあるけれど、死体がゴロゴロ転がっている悲惨な場面をなかなか頑張って描いている。
こうやって幼い読者に戦争の悲惨さが語り継がれるのはよいことだ。
もちろん、単に「戦争は嫌だ」で思考停止してしまうのはダメだけど。
岡本一広 『トランスルーセント 彼女は半透明』(第1巻‐第3巻、MF コミックス)
体の一部、時には全部が透明になってしまう病気「透明病」に悩む中学生の少女、しずか。
演劇部に所属し女優を目指す彼女にとって、その病気はハンディキャップとならざるを得ない。
しかしガキで阿呆だが真っ直ぐな性格の同級生の少年、マモルによって彼女は励まされていく。
初々しくて爽やかな二人の純情ラブストーリー。
ちょっと朴訥とした絵柄が物語に似合ってる。
そして読みきり連載だからか、一話一話、大ゴマを使って盛り上げるのが上手い。
お気に入りは第2巻、新入生歓迎の寸劇を行う羽目になった生徒会長に、しずかが演技のお手本を示すシーン。
20年、30年前ならこういうお話は女の子向けって言われただろうな。
男性向けマンガの少女マンガ化、なんて言葉が頭に浮かぶ。
投稿者 Dormeur : 11:57 PM | コメント (0) | トラックバック
février 27, 2006
2005年に読んだマンガ 2006.2.27
西島大介『凹村戦争』(ハヤカワ SF シリーズ J コレクション)
「J コレクション」は SF 小説のシリーズだけど本作はマンガ作品。
第35回星雲賞アート部門受賞作、だそうな。
タイトルは「おうそんせんそう」と読む。
火星人が地球に攻めてくるというオーソン・ウエルズの有名なラジオドラマをモチーフにしたセカイ系青春劇だ。
舞台は外部から隔絶された寒村、凹村。
主人公は平坦な日常に嫌気が差している中学生の少年、凹沢。
登場人物たちにはすべて「凹」の字が含まれている。
ある日凹村に、X 字型の巨大な物体が墜落する。
遊星からの物体 X 、というわけだ。
それは火星人襲来の兆候。
凹沢はその物体に日常からの脱出を期待するのだが……。
SF 作品をパロディにしつつ、デフォルメが強くてポップで可愛い絵柄によって描かれる、テキトーであっけない世界の終末。
今時な世界認識の表明といった感じの物語。
いしいひさいち『ヒラリー・クイーン――大統領への道』(光文社文庫)
ヒラリー・クリントン、クリントン元大統領、ブッシュジュニア大統領といったワシントンの人々をおちょくった4コママンガ。
手堅い面白さ。
滝本竜彦, 大岩ケンヂ『 NHK にようこそ!』(第1巻‐第3巻、角川コミックス・エース)
滝本竜彦の小説のマンガ化。
ひきこもり歴4年という青年、佐藤達広。
彼の前に中原岬という謎の美少女が現れる。
彼女は佐藤がひきこもりから脱出するのをサポートするのだという。
彼女をあしらいつつ、ひきこもりから脱出しようと試みる佐藤だが、アパートの隣室に引越してきた高校の後輩とエロゲー作りを始めて挫折したり、自殺オフ会に巻き込まれたり、マルチ商法にひっかかったりと道化を演じてばかり。
果たして彼は社会復帰できるのか。
そして中原岬の正体は?
というお話。
進行がゆっくりなので、原作を読んじゃった。
マンガ版も悪くはないけど、原作の方がもっとおもしろおかしくて共感しまくり。
自殺オフ会やマルチ商法のエピソードは原作にない。
まあ、小説の単行本を2冊発表して後が続かない滝本竜彦が生活するのには、このスローペースはいいのかも。
大岩ケンヂの描く岬ちゃんの可愛さがマンガ版の魅力。
石田敦子『純粋!デート倶楽部 完全版』(上下巻、Beam comix )
デート倶楽部って言われると、ある世代から上はある種の抵抗感を覚える単語だ。
だからこそわざわざ「純粋」って付けてるんだけど。
主人公は女子大学生の掛井朱音。
男性向けマンガの主人公らしくリアリティのない子供っぽい女性。
彼氏に振られてしまった彼女は、大学の同級生から「デート倶楽部」に勧誘される。
その「デート倶楽部」とは、体に触れることは禁止、メンバーが依頼者の男性の望む仮想のデートを演じ、一緒に過ごすときめきを提供するというサービス業だった。
「デート倶楽部」での仕事を通じて、朱音や同僚たちそれぞれが抱えた恋愛模様が浮かび上がり、絡まっていく。
心に受けた傷とその回復を描いた物語。
いやーよかったよかった、と爽やかな読後感。
連載していた雑誌が休刊に次ぐ休刊で完結が危なかった作品だったらしいが、ここに見事完結、これまためでたい。
投稿者 Dormeur : 11:51 PM | コメント (0) | トラックバック
février 20, 2006
2005年に読んだマンガ 2006.2.20
Andy Riley『 The Book of Bunny Suicides 』( Plume )
生きるのが嫌になったらしいウサギが、ひたすらいろんな方法で自殺を試みるという一コママンガ集。
現実的ではない様々な自殺方法が披露され笑える。
例えば表紙の絵は、トースターに潜んで死の時を待っているというもの。
ほとんどのものは絵だけなので、英語が分からなくても大丈夫。
こういうセンス好きだわ。
金田一蓮十郎『アストロベリー』(第1巻、ガンガンコミックス)
宇宙人の青年、ベティは奴隷・ペット用のクローン人間を作って一攫千金を果たそうと、地球の女子中学生、まこの性格をコピーし二人のクローン人間を作った。
しかしその二人の性格は全く正反対。
原因を探ろうと、ベティはまこの家の隣に居を構え、クローン人間たちを使って調査に乗り出す。
そして地球人の常識をよく知らない上に元々奇人であるベティの行動に、まことクローン人間が翻弄される、というコメディ。
テンポよく勢いのあるギャグとツッコミが上手い。
続きを読みたいけど不定期連載だから、次の巻が出るのはいつになることやら……。
鈴木みそ『銭』(第1巻‐第2巻、Beam comix)
鈴木みそと言えば「ファミ通」でのエッセイ・ルポマンガで名高いが、本作は物語仕立ての作品。
事故で死んでしまい幽霊となった少年が、黄泉の国のオペレータと思しき女性とともにお金とは何かを探りに社会見学に出かける、という筋立て。
そこで様々な業界が如何にして金を稼いでいるかという裏事情が描かれていく。
第1巻では、マンガ雑誌、アニメ、コンビニエンス・ストア。
第2巻では、ゲームセンター、同人誌サークル。
第3巻が出てるな、買わねば……。
丸川トモヒロ『成恵の世界』(第1巻‐第5巻、角川コミックス・エース)
SF 学園ラブコメディ。
冴えない中学生の少年、和人が雨の日にダンボール箱に入れられた子犬の前で悩んでいると、突然中学生の少女が現れ子犬を撲殺。
「これは危険な改造宇宙生物」と言って笑顔で去っていく。
これがきっかけでその少女、七瀬成恵に魅かれ始めた和人だったが、彼女の正体は地球人の母と宇宙人の父を持つダブル。
成恵と交際を始めることに成功した和人は、成恵のその素性ゆえに様々な騒動に巻き込まれていく。
何年か前にテレビアニメとして放送されてて、成恵の姉が宇宙船に乗ってやってくる回だけ観たのを覚えている。
原作を読むとその時に抱いた印象とギャップがあって意外だった。
最初の方は成恵がツンデレ気味なキャラクターだったのが、和人にゾッコン(死語)になってどんどんイチャイチャカップル化して、逆に和人が翻弄されてしまうのね。
甘くてリリカルでほのぼの風味、なお話。
ちなみにタイトルの元ネタは『非(ナル) A の世界』。
そしてサブキャラクターの少女、八木は SF 本に目がないという設定。
作者の SF 好きが伺える。
古本屋で安く出てたので買ってみたけどなかなか良い買い物だった。
現状は第8巻まで出てるようだ。
追々買い進めることにいたしましょう。
佐藤 順一、紗夢猫『魔法使い Tai!』(全3巻、角川コミックス・ドラゴン Jr. )
これまた懐かしい代物。
10年近く前にビデオ売りのアニメとして発売された作品が原作のマンガ。
アニメ版は観たことないけどキャラクターは覚えてた。
魔法クラブというものが存在する学園で、魔法クラブの新米部員の少女が奮闘するというラブコメもの。
当時の萌え系作品に位置づけられるのだろうが、特筆すべきことはない。
絵柄が微妙に古臭い。
古本屋の100円均一コーナーに置いてなかったら、一生手に取ることがなかったかもしれない。
投稿者 Dormeur : 11:02 PM | コメント (0) | トラックバック
février 13, 2006
2005年に読んだ本 2006.2.13
倉知淳『日曜の夜は出たくない』(創元推理文庫)
黒い上着に身を包んだ神出鬼没、年齢不詳の青年「猫丸先輩」が、不思議な殺人事件の謎を鮮やかに解いてみせるという七つの短編を収めた本。
落語のご隠居みたいな語り口の猫丸先輩のキャラが立ちまくり。
本書の結末で明かされるメタフィクション的仕掛けにも唸らされてしまう。
倉知淳『猫丸先輩の推測』(講談社ノベルス)
またも登場、猫丸先輩の謎解き6編。
今度は「日常生活の中のミステリー」という奴で、人は死なない。
唐沢なをきにカバーイラストと挿絵を描かせようと考えた人は天才やね。
文庫版が2005年9月に出てます。
田中啓文『蹴りたい田中』(ハヤカワ文庫)
「蹴りたい背中」ではなくて「蹴りたい田中」。
このタイトルが暗示している通り、ひたすら下らない駄洒落をオチに持ってくる脱力系 SF 短編集。
ここまで徹底していれば許してしまえるかな。
爆笑というよりも終始苦笑という笑い。
佐藤忠男『映画の真実―スクリーンは何を映してきたか』(中公新書)
冒頭、「映画で現実が分かるか」という問いに「映画とは現実と美化の間を揺れ動くものである」という答えを置く。
この考えのもと、古今東西の映画を引き合いに出して映画が映し出しているものを論じている。
映画の見方、楽しみ方を広げてくれる好著だ。
橘木俊詔『日本の経済格差―所得と資産から考える』(岩波新書)
今(2006年)の国会で国民の経済格差の拡大の問題が取り沙汰されている。
小泉内閣の政策が経済格差を拡大させている、と攻撃されているわけだが、1998年に出版された本書で既に経済格差の拡大は指摘されていて、本書を元に考えるならば別に小泉内閣の政策を中止したところで物事は解決しないということになる。
本書で指摘されている経済格差の拡大というのは、所得、資産における不平等化である。
日本では年功序列の賃金制度による賃金格差があって、世代間に所得の不平等があるが、それが世帯構成の変化により拡大している。
資産の面では、バブル期に土地価格が大幅に上昇したせいで資産の流動性が弱くなっていて、相続税の安さもあいまって、土地を持つ者と持たぬ者との差が広がっている。
また、資産を多く持つ者は貯蓄や株やらで資産を増やしやすいが、資産を持たない者は生活に手一杯でなかなか資産を増やせないという格差がある。
格差を調整するための手段として租税負担と社会保障制度があるが、日本では税制の不平等度が高く所得再分配効果が低い。
逆に社会保障制度による所得再分配効果が高いという。
そうした分析から、本書ではロールズの格差原理を支持しつつ具体的に政策提言にまで踏み込んでいる。
本書出版後に実行されている政策はというと、世代間の所得の格差が解消されるほど年功序列の賃金制度が改まっていることもないし、税金は安いままだし、社会保障制度は「小さな政府」の名の下に弱体化されようとしている。
小泉内閣に責任を押し付けられるわけではないが、小泉内閣が不平等化を助長しているのは間違いない。
もちろん、大して税金を払ってないくせにすぐに国民負担増反対と煽動するマスコミとそれに踊らされる国民が馬鹿なのも間違いないが。
小谷野敦、斎藤貴男、栗原裕一郎『禁煙ファシズムと戦う』(ベスト新書)
ルサンチマンと粘着質に溢れる小谷野敦大先生が中心になってタバコ排斥運動に異議を唱える書。
「タバコの煙は駄目で何故自動車の排気ガスは許されるんだ」という小谷野大先生の論理は論点をすり替えてないかと思わなくもないが、そんなにタバコが害のあるものなら何故非合法化しないのかという指摘は私も常々思っていたことなので同意。
(もちろん非合法化しない理由も推測できるけど。)
疾病を引き起こす危険のある輸入牛肉、アスベスト、食品添加物、農薬なんかは禁止になる癖に、タバコがそこらじゅうで簡単に手に入るのは筋が通らない話である。
最近、医療機関における禁煙指導を健康保険適用にしようなんて動きがあるが噴飯ものだ。
非喫煙者と自称する斉藤貴男はタバコ排斥運動を、個人の行動を国家が管理・統制しようとする動きとして捉えて危惧している。
この視点は重要。
フランス・ドルヌ、小林康夫『日本語の森を歩いて フランス語から見た日本語学』(講談社現代新書)
キュリオリの発話理論をベースにフランス人の言語学者が日本語を読み解いている。
旦那さんが日本人(デリダやリオタールの翻訳やってる先生ですな)で、第一インフォーマントにして草稿のまとめ役、だそうな。
日本語の例文との対比としてフランス語の例文を挙げているので、よりよく理解するには大学の第二外国語程度のフランス語を知っている方がいいけども、知らなくても差し支えない。
言語というのは言語が話されるまさにその状況が中に組み込まれているものであり、発話者から構築されていく関係性の網である。
単純に単語の継ぎはぎ、組み合わせじゃないよ――ってのが発話理論。
たまには言語学もよろしいですな。
毎日だと「もうええやん、こんな細かいこと考えんでも」なんて気分になりがちだけど。
投稿者 Dormeur : 11:39 PM | コメント (0) | トラックバック
février 10, 2006
2005年に読んだ本 2006.2.10
谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫)
帯には「『このライトノベルがすごい!2005』ライトノベル・ランキング作品部門 第1位」とデカデカと書いてある。
通販で買ったので全然知らなかったのだが、本屋に行ったらずらーっと『涼宮ハルヒの○○』というタイトルの本が並んでいた。
売れてるシリーズなのね。
この『涼宮ハルヒの憂鬱』は第8回スニーカー大賞大賞受賞作で、著者のデビュー作でもあるという。
物語は手堅く、高校生の少年「キョン」の一人称で語られている。
高校の入学式の日、彼のすぐ後ろの席の少女が自己紹介の場でこう言い放った。
「ただの人間に興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
彼女こそ涼宮ハルヒ。
折角美少女なのに変人である彼女に何故か目を付けられた主人公は、無理矢理彼女に付き合わされて文芸部を乗っ取り新しいクラブを創設することになる。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団、略して「 SOS 団」。
その活動は宇宙人や未来人を探すこと。
その活動を通じてハルヒとキョンの周りに様々な少年少女たちが関わってくる。
しかしハルヒは全く気づいていなかった。
彼らは、主人公を除いて宇宙人や未来人や異世界人や超能力者だったのである。
非日常を求めながら自分が非日常の世界に居る事に気づかないハルヒと、彼女の知らないところで非日常に翻弄されるキョン、という構図で物語は進んでいく。
これもいわゆる「セカイ系」という奴に入るのかな。
日常への幻滅、倦怠というのはライトノベルの読者層の年代には共感できる心理で、それを物語の根幹に据えたこの作品はスイートスポットにすぱっとはまる。
それに加えて一気に読ませる力は看板に偽りなし。
売れるのももっともだ。
露骨にラブコメしてないのもよい。
ジャック・ケッチャム『隣の家の少女』(扶桑社ミステリー)
ぐわぁぁぁぁぁぁ!
私、子供が虐待される話って読んでて辛いんですホントに。
この小説は語り手である主人公が、その少年時代を悔悟とともに振り返るという形式のお話。
少年時代の彼の隣家に、両親を交通事故で亡くした少女メグが引き取られてくる。
主人公はメグに心魅かれるのだが、メグはその家の女主人に虐待され、虐待はどんどんエスカレートしていく。
主人公は傍観者の立場を脱することができないまま、事態は惨事へと向かう。
悪趣味だなあ。
救いが全くないわけではないけど、気分が滅入る。
しかしきっついのにどんどん読み進めてしまう魔力がある。
それにしてもこの表紙、怖いよう……(シルエット恐怖症)。
カレル・チャペック『山椒魚戦争』(岩波文庫)
1935年に書かれた SF 小説の古典。
赤道直下のある島で、不思議な海生の山椒魚が発見される。
彼らは人間に従順で知能が高く、教育すれば道具を使いこなしたり、言葉を話すこともできることがわかった。
人類は山椒魚を盛んに繁殖させ、優れた労働力として活用し始める。
それがどんな悲惨な結果を招くかも知らずに……。
核開発競争と「核の冬」の恐怖を予見したかのような傑作。
秋山瑞人『イリヤの空、UFO の夏』(全4巻、電撃文庫)
宣伝によれば、各巻12万部以上売れたというライトノベル。
2005年にビデオ販売のアニメーション作品にもなった。
現代日本と似ているがちょっと違う世界を舞台に物語は進行する。
自衛隊ではなく「自衛軍」と米軍の基地がある地方都市、園原市。
そこに住む中学生の少年、浅羽直之が主人公である。
彼は並外れた知力・行動力を持つが変人という新聞部部長の水前寺に付き合わされて、夏休みの間ずっと UFO を探すために市内の山中に篭っていた。
夏休みの最後の夜、山から家に帰る途中に浅羽は、浪費した夏休みを埋め合わせるために学校のプールに忍び込む。
するとそこには「イリヤ」と名乗る不思議な少女が居た。
泳げない彼女に浅羽は水泳を教えるが、程なく政府関係者か軍関係者と思われる男が現れ彼女を連れ帰ってしまう。
その翌日、彼女「伊里野加奈」は浅羽のクラスに転校生として現れる。
しかし伊里野は無口で表情に乏しく、同級生と交わろうとせず、浅羽としか関わろうとしない。
普段はリストバンドで隠しているが彼女の両手首には金属の玉が埋め込まれている。
突然鼻血を出して倒れるし、大量の薬物を持ち歩いているし、公衆電話でどこかへ頻繁に連絡を取っている。
学校を欠席したり、校内放送で呼び出されて早退したりすることも多い。
訓練のための抜き打ちの空襲警報に異常に反応し、機敏な動きを見せもする。
『新世紀エヴェンゲリオン』の綾波レイみたいな「新兵器のパイロット」という設定を匂わせつつ、浅羽と伊里野、そして彼らを取り巻く面々の物語が綴られていく。
徐々に浅羽や新聞部員と打ち解けていく伊里野だったが、その時間は長くは続かない運命だった……。
キャラクターやストーリーだけ見るといかにもライトノベルという感じ。
しかしそのキャラクターの動かし方が上手い。
電撃文庫というライトノベルのレーベルだから正直言って侮っていたのだけど、見かけとは裏腹に文章力が高くて驚いた。
1巻につき1話というわけではないが、1話完結的なエピソードを重ねることで全体的に物語が進む構成になっている。
この物語構成も巧みですっかり引き込まれてしまい、1巻を読み終わるとすぐに次の巻を買いに走った。
ちなみにここから先はネタバレ。
物語が佳境に入って浅羽は、伊里野と共に過ごすか、あるいは伊里野を犠牲にして世界を救うか、というジレンマに陥ることになる。
「セカイ系」ですな。
結末は切ない。
少し不満なのは、読んでて頭の中に思い浮かぶ登場人物の姿と、カバーイラストや口絵に描かれている登場人物の姿が一致しないこと。
私の想像力と趣味の問題なのかもしれないけど、どうしてもこのギャップを埋められない。
アニメ版も web サイトを見たところイメージが合わなくて、躊躇しているうちにオンライン配信が終わってしまった。
投稿者 Dormeur : 11:59 PM | コメント (2) | トラックバック
février 09, 2006
2005年に読んだ本 2006.2.9
窪田 般弥、滝田 文彦編『フランス幻想小説傑作集』(白水 U ブックス)
フランス幻想文学のアンソロジー。
収録されているのは、サド、バルザック、ゴーチエ、ボレル、ネルヴァル、ヴィリエ=ド=リラダン、モーパッサン、ロラン、シュペルヴィエル、ロブ=グリエ、クランなどの短編小説。
作家の数の豊富さとともに翻訳者の数も豊富。
クランの「怪物」に至っては SF で、意表を突かれた。
J. K. ユイスマンス『彼方』(創元推理文庫)
『さかしま』で薀蓄たっぷりに人工楽園を描いたユイスマンス。
本書では、ジル・ド・レの一代記を執筆する作家を主人公に据えて、オカルト、悪魔崇拝の世界を展開している。
「産業と科学の世紀」への反発を主人公に語らせるあたり、さすがユイスマンス。
藤野千夜『ルート225』(新潮文庫)
志村貴子がカバーイラストを描いているのに気づいて「ジャケ買い」してしまった本。
中学二年生の少女、エリ子の視点で物語は語られる。
彼女は母親の言いつけで、帰りの遅い中学一年生の弟、ダイゴを迎えに家を出る。
落ち合った二人だが、二人をとりまく世界は微妙に変わってしまっていた。
町並みが変わっていて家に帰れない。
ようやく帰ると家には両親がいない。
死んだはずの同級生が生きている。
ジャイアンツの高橋由伸が少し太っている。
疎遠になったはずの同級生が親しく話しかけてくる……。
二人はどうやら平行世界に迷い込んでしまったらしい。
果たして二人は元の世界に戻れるのか。
オチを期待すると肩透かしを食らう。
第1章が「ルート196」、第8章が「ルート225」と銘打たれているところからして、少女が14歳から15歳へと移ろい行く部分を描いたお話なのか。