30 novembre 2008

『トラスティベル ~ショパンの夢~』

トラスティベル ~ショパンの夢~ トラスティベル ~ショパンの夢~ Xbox 360 プラチナコレクション

Xbox 360 初のアニメ調 3D RPG、ということでヒットを見込んで大量に仕入れたら、大量に売れ残ってしまったのだろうか。2007年6月の発売から3ヵ月後、Amazon.co.jp にて半値以下で投売りされていた哀れなゲームソフトが、この『トラスティベル ~ショパンの夢~』である。ちなみに現在(2008年11月)の Amazon.co.jp での売値は普通の価格に戻っている。

発売元はバンダイナムコゲームスだが、制作はトライクレッシェンド。トライクレッシェンドは元々コンピュータ・ゲーム中の音楽制作の下請けを主に手がけてきた会社で、本作は初の自社作品だという。音楽制作会社らしく、本作では音楽をモチーフにした物語が展開される。

物語の舞台は、19世紀に活躍した作曲家ショパンが39歳で病死する間際に見た夢の中の世界である。武将や政治家ではない歴史上の偉人を物語の根幹に据えたゲームは珍しいのではないだろうか。もちろん、歴史上ショパンが本作のような夢を見ていたという記録はなく創作である。

その夢の世界というのは RPG おなじみの剣と魔法の世界。主な登場人物の名前や地名は全て楽器の名前や音楽用語から採られている。

ヒロインは14歳の少女で、ショパンの妹に顔立ちが似ており、不治の病を患っているためこの世界では魔法が使えるという設定になっている。実際の歴史上でもショパンの妹は当時不治の病と呼ばれた結核のために14歳で亡くなっていて、この事実が物語に密接に関連している。(作中でショパンが妹についてヒロインに語るシーンを読み飛ばしてしまうと、物語世界の構造に加えて、最後のボスを倒した後のヒロインやショパンの行動が理解できなくなる。)ショパン自身も夢の中の世界の人物として序盤から登場するが、世界が自分の夢の中であることを自覚しており、成り行きでヒロインたちと旅をすることになる。なお、ショパンのキャラクターデザインは、今日まで伝えられている写真や肖像画とは全く似ていない。

物語は全8章の構成になっていて、各章は最終章を除くとショパンの著名作品から名づけられている。そして NHK の TV 番組『名曲アルバム』のように、各章に名づけられた曲が演奏されるとともにショパンの評伝が挿入される。演奏しているのはピアノのコンクールの権威であるショパン・コンクールの優勝者で、日本でも有名なスタニスラフ・ブーニンである。

本作の第一の売りは、Xbox 360 の性能を生かした非常に精細で鮮やかなグラフィック。ほとんど全てがリアルタイム描画による 3D であり、ファンタジックな世界の存在感を堪能することができる。ただし視点が固定されているのが惜しい。キャラクターはナムコのゲーム『ゆめりあ』や『アイドルマスター』の系譜に並ぶであろうアニメ調で描かれているため、暖かい雰囲気がかもし出されている。3D ゲームでよく描かれるリアルタッチの美男・美女が苦手だったり飽きたりしている人には受け入れやすいが、アニメ・オタク的なものを敬遠する人には抵抗があるだろう。

本作の第二の売りは、爽快感のある戦闘。ターン制とアクションを組み合わせた独自のシステムを持っている。戦闘用のフィールドの中、ターンごとに制限時間内で各キャラクターを操作してアクションを行う。攻撃も必殺技もボタン一つで行えるので、アクションゲームが得意でない私でも簡単だった。基本的にはボタンの連打によって敵をタコ殴りすることになるので、長時間プレイしていると親指が痛くなる。特定のボス・キャラクターを倒すごとに戦闘システムのレベルが上がり、攻撃力が向上する一方で素早い操作が求められ、難易度がやや高くなる。高いレベルでは必殺技の連鎖を行えるようになり、敵を素早く倒せて気持ちがいい。

味方キャラクターが使える必殺技は、その人物が戦闘フィールドの明るい部分にいるか影の部分にいるかによって変わる。敵によっては、明るい部分と影の部分とで形態と強さが変わる者がおり、敵を影からおびき出したり、敵を突き飛ばす必殺技を使って影から追い出したりするなどの戦術を取ると戦闘が楽になる。ただ、敵の配置が固定なので戦闘もパターン化してしまい、変化に乏しい。

フィールド上にいる敵キャラクターと接触することで戦闘画面に移行する、いわゆるシンボルエンカウントなので、無駄な戦闘は回避することができる。また、味方キャラクターのレベルが上がりやすく、目的地への道中に存在する敵キャラクターを順次倒して行けば自然に理想的なレベルまで上がるようになっている。従って無駄な「経験値稼ぎ」をせずに済み、物語がサクサク進む。

アクションに長けたプレイヤーには簡単すぎるシステムかもしれないが、そんな人々のために隠しダンジョンと二周目プレイがある。隠しダンジョンはボス・キャラクタークラスの敵がうようよしており、この隠しダンジョンにおいてプレイ可能になる最高のパーティーレベルで対処しないと、奥に居るボス・キャラクターを倒すことができない。最高のパーティレベルでは必殺技の連鎖を行うごとにボタン配置が入れ替わっていくため操作が難しく、歯ごたえのある戦闘を楽しむことができるだろう。二周目プレイでは敵が強力になっていて、雑魚モンスター相手でも相手の攻撃の防御に失敗すると瀕死のダメージを食らうため緊張感がある。敵が一匹ではない場合、一匹の敵を倒すために別の敵に背を向けていると防御できず必ずダメージを食らうので、戦術にも工夫を要する。

本作ではもともと、敵の攻撃に対する防御はボタンの連打では受け付けられず、タイミングがシビアである。一周目では防御に失敗しまくってもゴリ押しでクリアできるのだが、二周目では防御できないとクリアは難しい。2008年に発売された PS3 版では、敵の攻撃力が上がっているため防御が一層重要になっているらしく、敵の配置パターンがランダムになっていることもあいまって、難易度が向上しているという。

なお、隠しダンジョンや二周目をプレイをしなくても物語の本筋には全く関係がない。ただ、プレイしないと得られない強力なアイテムやコレクションアイテムがあり、二周目のみに存在するサブイベントがある。個人的には、二周目の敵が強すぎて何度も中断したので、一周目で得たアイテムを全て引継くか敵の強さを選べるようにして欲しかった。

本作の第三の売りは、美しい音楽。ブーニンが演奏するショパンの曲は言うまでもないが、オリジナル曲も出来がいい。音楽をモチーフにしている作品だけあって、抜かりがない。音楽面で個人的に最高傑作だと思っている PC-Engine の RPG『天使の詩II 堕天使の選択』には及ばないが。(『天使の詩II 堕天使の選択』は 1993年の作品だが殆どの BGM が CD 音源。サウンドトラックのダウンロード購入・試聴可能。「オープニング」、「夜の町」、「メインテーマ」は必聴。)

本作の第四の売りは、快適な操作性。前述の最高のパーティレベルを除けば、思い通りに操作できず不愉快になることがない。(そもそも最高のパーティレベルは隠しダンジョンや二周目のクリア以外には必要ない。)ディスクの読み込みで待たされることも極端に少ない。優秀なプログラマを抱えているのだろう。

グラフィック、戦闘システム、音楽、操作性、これらは web のレビュー記事で多くの人が賞賛している。
だが逆に、多くの人が声高に非難する部分がある。それはシナリオである。

実在の人物の人生をモチーフとし、精神世界を舞台にした物語であるだけに、抽象的・象徴的であったり難解であったりするのは悪くない。Xbox 360 のユーザーは恐らく、金銭に多少余裕が出てくる高校生以上の年齢層だろうし。ただ、伏線が充分ではないため、登場人物の言動が唐突な感が否めず、説得力を欠いている。少年や少女が年齢や育ちに反して突然難しい言い回しを使い、プレイヤーへの問題提起を行うシーンがあるのも不自然で興醒めしやすい。

しかし最悪なのは、エンディングのスタッフロールで物語のシークエンスに関係なく、登場人物たちがプレイヤーに対峙し御託を並べ出すことだ。物語に作者のメッセージを込めるのはいいが、それは物語中の登場人物の言動によって示すべきであって、必然性もなく直接登場人物に作者のメッセージを語らせるのは下策だ。メッセージの内容もプレイヤーを落伍者と決め付けて「まだ間に合う」と社会参加・社会復帰を促すようなものになっていて寒々しい。社長が監督と脚本を担当しているから誰も止めることができなかったのだろう。

PS3 版では物語を補完するシーンが追加されると共に、エンディングでの「説教」は改変されたという。発売後の非難を受けてだろうか。賢明な判断だ。後で改変するくらいなら最初から入れなきゃいいのに、とも思うが、過ちを素直に認める態度は評価したい。

なお、本作では物語のナレーターとして森本レオが起用されている。ただ、森本レオが出演しているのはオープニングの世界観紹介とエンディング後に語られる寓話のみである。個人的には森本レオのナレーションは好きなのだが、本作について言えば森本レオは不要だった。商業展開上の話題づくり以上の意味は感じられない。

一周クリアに要した時間は、およそ30時間だった。隠しダンジョンやサブイベント、アイテムのコレクションなどをやりこむのであれば、二周プレイの時間を含めて60時間から70時間はかかると思われる。短いという見解もあるが、クリアするのに50時間とかやりこみプレイで100時間以上とかかかるようなボリュームの作品は個人的にやる気が起こらないので、これくらいでちょうどよかった。

本作の評価は、最高の素材を使いながら上手に調理できなかった料理、という喩えに尽きる。ただ、上手に調理できていなくても食べられるレベルではある。シナリオのまずさに目をつぶれば、優れた作品だと思う。プレイした2007年当時、ユーザーが少ない Xbox 360 に限定しておくには勿体無いコンテンツだと思ったので、改良の上 PS3 用に移植されたのは喜ばしい。

ちなみに海外では『 Eternal Sonata 』というタイトルで発売されている。プロモーションビデオを観ると、まるでハリウッド映画の予告編のようで微笑ましい。海外の大手ゲーム情報サイト「 IGN 」では2007年の Xbox 360 ゲーム・オブ・ザ・イヤーの「ベスト・オリジナル音楽」賞を受賞している。ただし同時に「誰もプレイしなかったベスト・ゲーム」賞も受賞しているので、売れなかったようだ。

前の記事:「BD 『 Blade Runner ( Five-Disc Complete Collector's Edition ) 』

次の記事:「サーパス神戸 良い神戸

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://meta-metaphysica.net/mt/mt-tb.cgi/404

コメントする

プロフィール

空疎な中身のまま、サイト運営10年経過。

文学部出身ですが文学は苦手です。

Twitter

twitter.com/nemuribito/

過去の記事