13 novembre 2008

『 Memories Off #5 とぎれたフィルム 』考察

『 Memories Off #5 とぎれたフィルム 』の web での評価を探ってみると、評価が低くて意外だった。もちろん個々人の嗜好が作用して評価にバラつきが出るのはもっともなのだが、それにしても評価が低すぎないかと思う。

シナリオが薄っぺらい?中途半端?

恋愛関係とヒロインの抱えるトラウマの解消で悩んでいた従来の主人公たちに比べると、今回の主人公・春人は、先の2点に加えて仲間たちとの友情、映画制作の夢という課題がのしかかり一層ややこしい立場にある。恋愛の成就は友情や夢と必ずしも両立しない。だからエンディングにおいて、友情や映画制作の面で全て丸く収まらず中途半端になることがあるのは必然的だ。そもそも従来シリーズだって、主人公とメインヒロイン以外のヒロインの恋愛は、メインヒロインを犠牲にして成り立っている。だからこそ、ラストカットは犠牲者ゼロで友情も夢も犠牲にしない稀有なパターンであり、ハッピー・エンドの印象が際だつのだ。

もし春人が絶妙の立ち回りを発揮すれば、ラストカットをベースに美海を脚本担当として、瑞穂をアドバイザーとして映画制作に巻き込み完全な大団円に持っていくこともできるだろうが、さすがにそれは出来すぎというものだろう。器用に問題を収拾する主人公なんて、それこそメモオフシリーズの主人公らしくないし。

ルートによっては映画完成の経緯がスパッとカットされていることがある。長さのバランスを取るためだと思うが、ここを「薄っぺらい」「中途半端」と評するのは議論が分かれる。詳細に描いたら描いたで、「長ったらしい」と言われそうだ。

瑞穂エンドに納得いかない?

瑞穂ルートでは、映画制作の夢に対して主人公は正面から向き合っていない。あすかの問題だって、瑞穂の事情を知ったあすかの方から折れてくれたのであって、主人公は何も解決していない。そして瑞穂と気まずくなれば、職場放棄という失態を犯す始末。主人公は逃げてばかりだ。だから作り手は主人公に瑞穂を失うという天罰を下したのだ。麻尋ルートの「フタリキリ」エンドで、仲間との友情と映画制作の夢を両立させる努力をせずに恋愛にかまけた主人公に堕落の道しか与えていないところを見ても、作り手の意図は明らかだろう。

美海ルートでも作り手の意図は一貫している。美海 A エンドで主人公が美海を失っていないのは、あすかの気持ちを汲んだうえで美海の問題にきちんと向き合ったからだし、友情からも映画制作の夢からも離れていないからだ。もしも春人が美海を映画制作に参加させず、独り占めして可愛がるという選択肢があったとしたら、恐らく美海も瑞穂と同様の道を辿ったはずである。

瑞穂 B エンドの意義は、プレイヤーに瑞穂が抱えていた苦悩を疑似体験させたことにある。安直に悲劇を描いてプレイヤーに衝撃を与えようとしたのではない。死別からどう立ち直るべきか、プレイヤー自身に降りかかった出来事として考えるよう促しているのである。

サスペンス要素が安っぽい?

確かに、雄介の死の謎を伏して物語を引っ張る割に、麻尋ルートで明かされる真相は意外性に乏しい。一見すると、麻尋がさっさと真相を語っていればサークルメンバーの仲もそれほどこじれなかったように思われる。

だが、麻尋は対人コミュニケーションが不得手であることにプレイヤーは留意する必要がある。作り手がわざわざ麻尋視点を設けてまで描写している以上、麻尋のコミュニケーション能力の低さは作品を理解するうえで最優先事項である。リバースカットで判るとおり、麻尋は動揺しているときほど人前では強がって不敵な言動を繰り返し、本心を素直に吐露できない。自分が原因で諍いが起きて2人が死ぬ、というのは一般論で考えても悪夢のようだが、死んだのが自分にとって大事な人間なら尚更だ。麻尋にとって、そんな思い出すのも辛い事件の詳細を語るには、心が安定するだけの相当の基盤がなければならない。

麻尋の望みは3つある。1つ目は雄介の台本を映画化すること、2つ目はサークルのメンバーに自分を受け入れてもらうこと、3つ目はあすかにネックレスを渡すことである。サークルのメンバーに受け入れてもらうためにもネックレスを渡すためにも、あすかに会って話をしなければならないが、あすかが対話を拒絶しているうえ、メンバーも二人の接触を回避しようと手を回しているので会うことすら難しい。それに麻尋が真相をあすかに話したところであすかが協力者になる可能性は低い。あすかが求めているのは真相よりもまず、自分の居場所を確保することだからだ。むしろ麻尋が積極的にあすかにアプローチすればするほど事態が悪化するだろう、と麻尋にも予見できる。だから麻尋はあすかの問題は機会が到来するまで保留しておき、雄介の台本の映画化を優先した。麻尋にとって3つの望みが満たされない不安定な状況が続くため、終盤に3つが満たされる可能性が見えて心の余裕ができるまで真相を話そうとしないのである。

そうだとしても、「人殺し」呼ばわりされて麻尋は辛くないのか、というともちろん麻尋は陰で泣くほど辛い思いをしている。だが麻尋は本質的に臆病なため、自身の弱みを見せて拒絶されるよりは、虚勢を張って誤解されたままの方がマシだと思っているのだ。恋愛に関しても同じことが言えるのは、春人への恋心を否定しようとする言動や、相思相愛の春人から理由も言わずに去って行く行動を見れば明らかである。

香月ルートにおいて、香月に雄介との関係を問われて激怒したのは、麻尋の心に隙が出来ていたところに雄介への罪悪感を刺激されたからだと思われる。映画制作まで放棄したのは、香月との関係を修復する自信がなく、「自分に雄介の映画を作る資格もサークルメンバーに関わる資格もない」といった調子で遁走したのだろう。

重要なのはキャラクターそれぞれの立場と価値観に基づく心理であって、その絡み合いが「 Memories Off 」シリーズの醍醐味だ。サスペンス要素はプレイヤーの興味を煽るための味付けに過ぎない。

登場人物の行動が突飛で共感できない?

描写から理解できる限り、登場人物の行動に大した矛盾はない。共感できるかどうかはともかくとして、登場人物は各々の立場と価値観に基づいて行動している。プレイヤー個人の立場と価値観で判断すれば登場人物の行動は突飛かもしれないが、登場人物はプレイヤーと同一ではないのだから、登場人物の行動は登場人物の立場と価値観で評価すべきだ。
どれだけ無粋にならずに登場人物の行動に説得力のある説明を行うかが作家の腕の見せ所なのだが、本作では説明の仕方が上手か下手かはともかくとして、必要な説明は最低限されている。あとはプレイヤーの読解力の問題だと思う。

そもそも、「 Memories Off 」シリーズに共感できるような登場人物っていたっけ? 

お色気描写が多い?

主人公が大学生の男子ともなれば、女性の肉体的な魅力に興味がないのは不自然だし、一人暮らしのアパートで互いに好いた男女が夜を明かすなら、性交渉を仄めかす描写がないとかえって不自然だろう。今時の一般的な価値観で言えば、高校生でも恋人同士で性交渉がないのは少数派なはず。

家庭向けゲーム機用ソフトウェアの倫理制限内であるにせよ、性描写が前面に出てくるのは「 Memories Off 」シリーズにそぐわない、という見解もあるが、散々男女の恋愛の修羅場を楽しんでおきながらプラトニック・ラブを求めるというのは矛盾してませんか。

あすかがうざい?

確かに、あすかはうざい。しかしあすかの恋愛感情に気づいておきながら、それにきちんと向き合わない春人にも責任はある。麻尋の登場によって顕在化するあすかの心の問題についても、あすかにきちんと向き合って丹念に話を聞いていれば、あすかの家庭環境や友人関係、雄介に対する感情の捩れといった事実から、あすかの行動の源が問題からの逃避と逃避場所の確保にあることは早期のうちに春人に見えたはずだ。あすかの年齢や経歴、現況を総合的に勘案すると、あすか一人に責任を押し付けたり自己解決を求めるのは酷というものである。最も罪深いのはあすかの両親だが、親として娘をサポートする責任を放棄している以上、唯一あすかを導ける立場にある春人が何とかするしかない。

プレイヤーも、あすかが抱えている事情を知れば無闇に「あすかがうざい」と切り捨てる訳にはいかないはず。えっ、あすかは健気で萌える? あれは健気というより病的依存だ、目を覚ませ!

まあ、あすかと同じく主人公に一方的に好意をぶつけてくるキャラクターである『 Memories Off ~それから~ 』の鷺沢縁とは違って、相手の気をひくために動物や自分を傷つけるようなことをしない分だけあすかは理性的ではあるけど。ひょっとして、あすかルートでバッド・エンドを作ろうとすると縁と似通ってしまうから、敢えてバッド・エンドを無くしたのだろうか。

「とぎれたフィルム」の意味

・「ファム・ファタル」のテープ
・雄介の命と遺志の比喩
・春人と麻尋の恋愛関係の比喩
・制作が途中で頓挫した映画(香月ルート)
・美海が形成したエピソード記憶の比喩
・春人と瑞穂の恋愛関係の比喩

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