ループする世界とは何か
作中の「人類が滅亡し1週間を繰り返す世界」(以下、「ループ世界」)を「マルチエンディングの恋愛アドベンチャーゲーム」(以下、「ゲーム世界」)のメタファーとする。
その根拠として、以下の類似点が挙げられる。
1. 現実世界では人類が何十億人も存在するが、ゲーム世界ではそのうちのごくわずか、主人公と何人かのヒロインと数人の脇役しか登場しない。登場人物は極めて狭い人間関係の中で生きている。他の人類は存在が希薄であり、この希薄さをデフォルメ・極大化すれば人類が登場人物以外全滅した状況となる。
2. ゲーム世界でどんな感動的な展開や惨劇が起ころうと、ゲームをリセットして初めからプレイすれば登場人物はその出来事を記憶していないし、ゲーム世界内の物品も全て元通りになる。登場人物は自分たちの生きている世界がリセットされるものとは気づいていない。ループ世界の放送部員たちも同様にループの初めに戻れば記憶を失い、ループ世界の物品は全て元通りとなり、放送部員たちは世界がリセットされるものとは気づいていない。
3. ゲーム世界が展開されるなか、ゲーム世界がリセットとループによって閉じられており、その中で異なった展開があることを知っている存在がある。それはプレイヤーである。ループ世界の現象やループ中の出来事を知った黒須太一は、情報量でプレイヤーとほぼ同一化する(注1)。ループ世界での太一の情報源は太一自らが記した日記であり、ゲーム世界でのプレイヤーの情報源は主人公による叙述である(注2)。どちらも主人公の視点によって把握された世界という点で変わりない。
4. プレイヤーとほぼ同一化した太一が取った行動とは、日記から得た情報を元にループ世界での同一展開を回避しつつ、ループ単位の1週間を放送部員の少女の1人と出来る限り過ごすことである。一方、ゲーム世界で繰り返しプレイ中のプレイヤーは、過去のプレイ経験や攻略サイトで得た情報を元にゲーム世界での同一展開を回避しつつ、ゲーム世界中の時間をゲーム世界のヒロインの1人と出来る限り過ごそうとする。
5. ゲーム世界では、主人公がゲーム世界のヒロインの心の傷を救済する展開を取ることが多い。主人公が1人のヒロインの心の傷を救済した場合、その他のヒロインの心の傷は放置される。全てのヒロインの心の傷を救済しようとするなら、世界をリセットさせてやり直すしかないが、それでも1人ずつしか救済できない。太一も世界をリセットさせて1人ずつ放送部員の心の傷を救済する(注3)。
6. ループ世界に一人残り記憶を保ち続ける太一だが、世界が分断されているため放送部員とはコミュニケーションを行うことができない。可能なのは一方的な呼びかけだけであり、その呼びかけが届いているのか知る術がない。ゲームのプレイをやめたプレイヤーは、世界が分断されているためゲーム世界中のヒロインとはコミュニケーションを行うことができない。可能なのは一方的な呼びかけだけであり、その呼びかけが届いているのか知る術がない。
プレイ1周目の世界とは何か
『 CROSS†CHANNEL 』の1周目は、関係がギクシャクしていた放送部員たちが和解を果たし、共に放送を始める学園ものストーリーである。人類の滅亡や世界のループは示されていない。放送部員をはじめ、学園の生徒が狂気を孕んでいることも示されておらず、太一は放送部員と対立していない。放送部員以外の人間がいる。これらのことから、1周目が少なくともループ世界の出来事ではないことがわかる。では、何なのか。
ラストシーンで眠る太一が見た夢、あるいは太一の願望と捉えることが一般的だろう。しかしループ世界がゲーム世界のメタファーであり、太一とプレイヤーがほぼ同一化しているとすると、1周目はゲーム世界を好むプレイヤーが耽溺したい学園ものゲーム世界のモデルとして提示されているとも考えることができる。
「萌え」の記号が散りばめられたキャラクターによって、コメディや純愛感動ストーリーが展開されるゲーム世界。その表層を剥ぎ取ればループ世界のように狂気に彩られていることを否定するものは、実は何もない。主人公に愛を注ぐ献身的なヒロインだって、程度が過ぎれば恋愛依存症のストーカー。ツンデレ属性のヒロインだって、程度が過ぎれば敵対者。委員長属性のヒロインだって、程度が過ぎれば自分で自分を生きづらくしている愚か者。「萌え」の記号によって個性が与えられたキャラクターの世界は、ちょっと境界線を越えれば簡単に悲惨で破滅的なストーリーに転んでしまいかねない(注4)。そして実際に境界線を越えたのが、『 CROSS†CHANNEL 』の少女たちではないか。
狂っているのは何か
『 CROSS†CHANNEL 』についてどこかの blog で書かれていた感想に、「主人公が狂っているのに、少女たちが心を許して主人公に迫ってくるのは気持ち悪い」というものがあった。ある意味でこれは正しい。主人公がどうであれ作中の女性たちに好かれるのが、恋愛アドベンチャーゲームというものだからである。
主人公や少女たちは本当に狂っているのだろうか。ゲーム世界の主人公や少女たちは、物語の筋書きに従って行動している。主人公はプレイヤーの操作にも従う。自分たちは他者に対して自動的に対応せざるを得ないのだ、と自分たちの狂気について太一は語っているが、その自動性は物語によって強いられた行動様式である。登場人物が物語から外れて自律行動することなどないのだから。
太一が複数のヒロインと情交するのは、ゲーム世界に対するプレイヤーの態度を模倣したものに過ぎない。主人公とヒロインの純愛、人生で1回きりの運命的な恋愛を体験しているにも関わらず、プレイヤーはゲーム世界で複数のヒロインを次々と攻略する。とんでもない好色家であり浮気者である。純愛とも運命的な恋愛とも程遠い偽善者だ。太一の気持ち悪さを考えると、プレイヤーの気持ち悪さもまた浮かび上がってくる。
狂っているのはプレイヤーかもしれないし、恋愛アドベンチャーゲームそのものかもしれない。
太一の決断
太一と和解した少女は、そのつど元の世界へ消えていく。一旦消えれば世界がリセットされてもループ世界に現れないまま、新たな一週間がスタートする。ゲーム世界でも、攻略済みのヒロインは別のヒロインの物語には現れもしないか、物語の背景に過ぎない。全ヒロインを攻略してしまえば、もはやそのゲームから新しいものは得られない。プレイヤーに残されるのは、ヒロインとともに過ごした時間の思い出だけだ。だから最後には、ゲーム世界を模倣している太一のもとに誰もいなくなった。あらゆる登場人物が消え去り、太一だけが残される。太一は登場人物の思い出だけを拠り所にして生きる。
太一はループ世界の中でひたすら少女たちをとっかえひっかえして、恋愛を楽しみ続けることはしなかった。そんなことをしても同じゲームを繰り返すように飽きが来てしまうから。ならば自分も記憶を失ってループするか。それでは互いに傷つけあうだけの人間関係と、いつ惨劇に転ぶともしれない状況を繰り返すだけだ。ならば特定の少女とループ世界で暮らし続けるか。そうしようにも、狂気を抱えた太一と互いに理解しあえる相手は彼女たちのなかにいなかった。太一は自分が他者と理解し合えるとは思わなかった。太一は自分が暴走して他者を傷つけることを恐れている。一人になれば他者を傷つけることも他者に傷つけられることもない。だから太一だけが残った。しかし孤独には耐えられなかった。
ゲーム世界は一時的で不毛なコミュニケーションである。プレイヤーがゲームを終えればそれっきりだ。プレイヤーが帰って来た現実世界も一時的で不毛なコミュニケーションである。死ねばそれっきりだ。どちらにせよ、相手と一体にはなれない。だが生きていれば、他者にメッセージを発信し続ければ、一時的であっても他者と通じることが、CHANNEL が CROSS することがあるかもしれない。
だから太一は、ラジオ放送を通じて顔の見えない誰かにメッセージを発信し続ける。
だからプレイヤーは友人に、あるいは Internet の先の顔の見えない誰かに向けて、感想や考察を語る。
だからシナリオライター田中ロミオは『 CROSS†CHANNEL 』を書き、作品を通じて顔の見えない誰かにメッセージを送った。
ラストシーンが謎めいているのも、プレイヤーに他者への語りを喚起させる仕掛けなのではなかろうか。
注意
以上の解釈は確定的、絶対的なものではない。例えば、登場人物の中で例外的にメタ視点から事態を把握している七香の存在をどう絡めて解釈するかは意図的に無視している。作中最大の謎であるエピローグ「黒須ちゃん寝る」も同様。
- 注1:プレイヤーには明かされていないループを記した日記の存在が作中で言及されているため、「ほぼ」という語を用いた。
- 注2:ゲーム世界はほとんどの場合、主人公による一人称で叙述されている。
- 注3:但し、本作では太一とヒロインは必ず離れ離れになってしまうため、救済は完全ではない。太一はヒロインの抱える問題を彼女自身の手で克服するようヒロインに宿題を課して別れる。ヒロインは太一に依存しない自立した生き方が求められることになる。恋愛の成就とヒロインの救済をもって物語を終える一般的な恋愛アドベンチャーゲームとの大きな差異が、そこにある。
- 注4:それを意識しているかどうかは不明だが、萌えギャグマンガ『らき☆すた』を悲劇に改変した二次創作作品が多数の作者によって作られている。参照:「『泉こなたを自殺させる方法』を考えるスレ」



今更ですが、クロスチャンネルのエンディングについての個人的解釈を。
まさにループ。
エンディングは太一が夢を見るシーンではないかと。
その夢の内容が1週目のハッピーエンドです。
エンディングとオープニングがループしてゲーム全体が輪となりつながっています。
(太一はB世界に取り残されたまま)
そう解釈するとすっきりします。
EDのようなOP、OPのようなEDであるのは実はOPとEDがそのまま逆だからです。