短編アニメーション作品『ほしのこえ』で一躍「日本アニメーション界の期待の新星」として祭り上げられたアニメーション作家、新海誠。
彼の劇場公開用映画デビュー作である『雲のむこう、約束の場所』では美しい背景映像と失われた青春へのノスタルジアに感心させられた。
その一方で SF 趣味のくどさが目立ち、「新海誠には長編より短編が向いているのではないか」という疑問も抱くことになった。
次回作ではどう打って出てくるのか、楽しみに待ち続けてついに去年公開された劇場公開用映画の第2弾が『秒速5センチメートル』である。
本作は60分程度の中編作品だが、3本の短編が時系列順に連続する構成になっていて、それぞれ主人公の小中学生時代、高校生時代、20歳代後半あたりが描かれる。
ストーリーを簡単に言ってしまえば、小学生時代から一人の少女を恋し求め続けて大人になった暗い男の物語だ。
主人公とヒロインの少女は転校生で内向的な性格である者同士なことから仲良くなり、二人で学校生活を過ごすようになるが、中学校に入学する際に少女は東京から栃木に引っ越してしまう。
離れ離れになった二人は手紙で連絡を取り合うようになるのだが、中学1年生の冬、今度は主人公が東京から種子島に引っ越すことになってしまう。
引っ越す前に彼女に会いたいという思いから、彼は電車に乗り彼女の待つ栃木へ向かうのだが……。
主人公の視点から少年と少女の心の交流が描かれるのがこの第1話の「桜花抄」である。
第2話「コスモナウト」では舞台が種子島に移り、高校生になった主人公に恋した同級生の少女の視点から映画は展開していく。
主人公は彼女に優しく接するが、彼の気持ちは常に海の向こうの少女にあり、同級生に向けられることはない。
それを読み取った彼女は自分の恋が実ることのない恋であることを痛感しつつも、恋心を諦めることができず涙する。
基本的に現代劇であるこの作品で、ささやかながら SF 趣味が現れるエピソードでもあるが、この程度なら微笑ましい。
第3話「秒速5センチメートル」では再び視点が主人公に戻る。
都会の孤独の中で主人公は擦り切れていく。
ここでメインテーマ曲『 One more time, One more chance 』が響き渡り、ヒロインの少女を求め続けて彷徨う主人公の心模様が小刻みなカットのラッシュで描かれる。
まさに圧巻で、第1話、第2話はこのミュージッククリップ部分で叙情を一気に爆発させるための前座に過ぎないと言っていい。
『ほしのこえ』から新海が一貫して描いてきたテーマが「大人になると失われてしまい二度と手にすることのできない純粋さと美しさ」だった。
本作では前作同様に、青春時代の美しい自然風景との対比で強調される「都会暮らしの孤独」が加わる。
映画技法の面では、依然モノローグが多用され、登場人物が自分の心情を饒舌に語る。
叙情は背景音楽の力で一層増幅される。
背景の絵の美しさはより一層高まっている。
新海の追求・発展させてきた方向性が本作において極致に達した、と言っていいと思う。
逆に言うと、これ以上の成長・発展が見えづらいということでもある。
「新海節」と俗に言われるモノローグを守り続けていくのもまた個性なのだけど、折角素晴らしい映像を作る能力があるのだから、言葉ではなく映像の力で語るように洗練されないものか。
新海が詩と映像が不可分であると考えているのなら、サイレント映画のように詩を字幕で現すという方法もある。
あるいは本作のクライマックスで見せたように、歌曲の PV に徹するという方向もあるだろう。
あと、素人目でも気づくのが、背景美術が優れている分、風に揺れる草や打ち寄せる波といったもののアニメーション表現が貧相に見えてしまうこと。
この点は技術的に向上の余地があるはずだ。
新海誠の作品には、かつて文化系クラブ男子であった人が培ってきたであろう美意識と感受性に支えられた青春へのノスタルジーが流れている。
これがオタク男に強い共感をもたらすことになる。
しかし今時の女性から見れば、「キモイ」の一言で全否定されるだけだろう。
ウジウジ悩む男は、女性にもてない。
過去をとことん引きずる主人公に比べて、大人になったヒロインの何と晴れやかで、過去をあっさり流し去ることか。
主人公とヒロインの違いと同様に、観る方もまた、男性と女性では主人公に対する感想が大きく分かれるに違いない。
ところで、これまで新海の作品に共通して使われているモチーフに「鉄道」がある。
本作は恐らく、アニメーション映画史上においてもっとも詳細に鉄道を描いた作品だ。
鉄道車両の外観や内装のみならず、プラットホーム、駅舎、案内設備、保安設備などのディテールの細やかさは感動的である。
この点だけでも本作には唯一無比の価値がある。
私は本作を劇場で2回観て、DVD も初回限定版を予約購入した。
DVD では夜空を飛ぶ鳥のシーンでブロックノイズが見えるし、売り物である高画質がスポイルされてしまうのが不満だ。
しかし先日、4月18日に Blu-ray Disc 版と HD DVD 版が発売されるというニュースが流れた。
諸手を挙げて歓迎したい。
![秒速5センチメートル 通常版 [DVD]](http://images-jp.amazon.com/images/P/B000QXD9S6.09.TZZZZZZZ.jpg)


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