« juillet 2007 | メイン | janvier 2008 »

août 06, 2007

読んだ本 2007.8.6

2006年の初春くらいに読んだ本。


玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』(中公文庫)

[ ISBN:4122045053: bk1 - jbook - amazon ]

20代から30代の若年層が直面している労働問題を、様々な統計データを元にして論じた本。
そこで明らかにされているのは、中高年が優遇される労働政策、雇用慣行の実態だ。
「パラサイト・シングル」「フリーターの増加」は必ずしも精神論に帰せられるものではないことを著者は示す。
さらに定年延長がもたらす問題、転職にまつわる問題、所得格差、仕事内容の格差、成果主義の問題と、様々に問題点が指摘されていく。
その中で若年層が目指すべき道は何か、というと、著者によれば「自営業者になること」だそうだ。
本書のうち一章が自営業についての論考について割り当てられており、その末尾は「若年雇用者問題の将来は、若者が『自分が自分のボスになりたい』と思うかどうかにかかっている」という一文で締めくくられている。

ルドルフ・ヘス『アウシュビッツ収容所』(講談社学術文庫)

[ ISBN:4061593900: bk1 - jbook - amazon ]

アウシュビッツ強制収容所の所長として、収容所の建設、収容者の大量虐殺を実行したルドルフ・ヘスの告白録。
ひたすら冷静に、仔細に彼の経歴と務めてきた仕事が語られる。
忠実に任務をこなそうとするクソ真面目な公務員の姿がそこにはある。
自分も収容所に入れられた経験があるし、収容者を虐待・虐殺したくなかったけど、資材や食料が足りないのに無茶な命令で収容者ばかり増えるし、総統からの殺せという命令だったんで仕方なかった……という論調は、公務員の悲哀が感じられて共感・同情する部分もあるけど、結局自己正当化だよなあ。
何より、被害者への謝罪の気持ちが全然現れていないのが問題だ。
とはいえ、ナチスが隠蔽しようとした強制収容所の実態と、「残忍だったり嗜虐的だったり頭のおかしかったりする人物でなくても、人は大罪を犯すことができる」という事実を示した点で、人類史に残すべき重要な一冊といえることは間違いない。

D・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』(河出文庫)

[ ISBN:4309462553: bk1 - jbook - amazon ]

平凡なイギリス人の主人公のもとに、ある日突然工事業者がやってくる。
業者いわく、立ち退き期限が過ぎたので、道路建設のために強制的に家を取り壊す、と。
そんな工事は知らないと抗議していると、友人が現れ彼を連れ出す。
友人いわく、立ち退き期限が過ぎたので、銀河バイパス建設のために間もなく地球が強制的に消滅させられる、と。
友人の正体は、宇宙人向けの旅行ガイドブック『銀河ヒッチハイクガイド』を改訂するため地球にやって来た宇宙人だった。
友人の手で地球を脱出し、地球最後の生き残りとなった主人公は、訳が判らないまま無理矢理宇宙を放浪することになる。

小ネタ的ギャグが満載で、笑いながら「イギリスのコメディ TV 番組っぽいセンスだなあ」と思って読んでいたが、それもそのはず、作者はイギリスのコメディ TV 番組の制作に携わってもいた。
本書読了後、2005年制作の映画版の DVD を買って観たけど、面白さは原作には及ばない。
バカバカしい小説で爆笑したいと言われたら、オススメする一冊だ。

ちなみに本作には、コンピュータに「人生、宇宙、すべての答え」を答えさせるという有名なナンセンス・ギャグがある。
本作へのオマージュ的ジョークとして、「人生、宇宙、すべての答え」で Google 検索すると本作同様の答えが出てくることはファンには有名な話。

酒見賢一『語り手の事情』(文春文庫)

[ ISBN:4167656108: bk1 - jbook - amazon ]

奇書、である。
舞台はヴィクトリア朝時代のイギリス。
メイドあるいは執事のような仕事をしているが、あくまで自らを「語り手」と称する謎の女性が語る物語。
彼女はある時は性に対する妄想を抱いた少年の筆下ろしを行い、ある時は女性になりたいと妄想する紳士をサポートして、妄想力で彼の肉体を女性に変化させる。
またある時は性奴隷を求めてやって来た SM マニアの男の前で降霊会を行い、依代となった少女に SM 行為をさせる。
傍観者のようにただ「語って」いた彼女だったが、かつて筆下ろしを行い今や青年となった男がサキュバスに犯されたのに際して、身を投じて彼と交わり彼を助け、彼とともに異空間へと去っていく。

フェティッシュな性談義、性行為が次々と描かれていくので、こりゃエロ小説かと思いもするけど、人間の肉体をもっと見ろ、本来備えている「性」の力というものをもっと見ろ、と著者は言いたいのかもしれない。
あとがきで著者が言うのは、これは「恋愛小説」だそうな。

で、結局「語り手」って何?

浅田次郎『椿山課長の七日間』(朝日文庫)

[ ISBN:4022643528: bk1 - jbook - amazon ]

映画化もされた新聞小説。
映画の方は未見。

突然死した中年オヤジが主人公。
家族に別れを告げるため、天国から舞い戻ってくる。
ただし与えられた時間は7日間、肉体は全く別人の美女のもの。
自分の正体を明かすことはルール違反。
主人公が天国で同席した、同じく現世に未練のあるヤクザの組長、男の子も、生前とは正反対の姿と性格で現世に戻され、現世でやり残したことを果たそうとする。
そして彼らは、自分の人生がどのようなものであったのかを知ることになる。
その中には知りたくないものも、知っておかなければならないこともあった……。

「素晴らしき哉、人生!」的な作品。
しかし最後の最後で、主人公の父親である爺さんのたどる結末が……あれがなけりゃ、ハッピーエンド、大団円めでたしめでたし、だったのに。
楽しんで読んでただけに、味噌をつけられた感じ。

投稿者 Dormeur : 09:04 PM | コメント (0) | トラックバック

août 05, 2007

読んだ本 2007.8.5

2006年の初春くらいに読んだ本。

宮部みゆき『人質カノン』(文春文庫)

[ ISBN:4167549042: bk1 - jbook - amazon ]

いわゆる「日常の中のミステリー」を描いた短編集。
「円紫師匠」とか「猫丸先輩」みたいな全編共通の探偵役がおらず、それぞれの話の主人公が自力で真相を探り当てるのがちょっと目新しかった。
宮部みゆきがこういう短編も書ける人って知らなかったな。

古橋秀之『ある日、爆弾がおちてきて』(電撃文庫)

[ ISBN:4840231826: bk1 - jbook - amazon ]

あとがきで作者自身が言及しているけど、「時間の流れ」をテーマにした短編集。
ストーリーは「高校生くらいの普通の少年の前に、変な少女が現れて、恋心が絡む」というライトノベルにありがちな構成で統一されている。
青春を感じさせる明るい雰囲気の作品群の中で「恋する死者の夜」という一編が異彩を放っていて印象深かった。
死んだ人間がゾンビ化して生前の行動を繰り返すようになっている世界で、主人公は病弱な少女と出かけた「一日限りのデート」を少女の死後も繰り返し、世界の緩慢な死に身を委ねる……というお話。
あと、最後の一編「むかし、爆弾がおちてきて」の設定は広島・長崎の被爆者や関係者には怒りを買うかもしれないけど、秀逸なアイデアだと思う。
ライトノベル入門の一冊として好適かも。

谷川流『絶望系 閉じられた世界』(電撃文庫)

[ ISBN:4840230218: bk1 - jbook - amazon ]

谷川流といえば『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズで有名だが、これは毛色の違うアプローチの「セカイ系」作品。
主人公の友人の家に、突然天使と悪魔と死神と幽霊が現れる。ひとまず主人公は、自分の名前しか思い出せない幽霊の青年の素性と死因を探っていくのだが……。
天使や悪魔や死神や幽霊が居る世界のシステムが存在するなら、そんな世界そのものが狂っているのではないか、狂った世界では狂人こそがまともなのではないか……という着眼点で物語が作られている。
荒唐無稽な設定で、主人公もヒロインも狂っているが、一種の思考実験としては面白い。
描かれた狂気をフィクションとして楽しめるだけの免疫を備えてからじゃないと読んではいけない。

長森浩平『タイピングハイ! さみしがりやのイロハ』(角川スニーカー文庫)

[ ISBN:4044709017: bk1 - jbook - amazon ]

物語の舞台は人口減少により都市コロニーごとに人が住むようになった近未来の世界。
主人公はハッカーの少年。
彼は伝説的ハッカー「レムス」の情報を受け、違法な AI 研究をしているという名門学園に生徒として不正入学する。
早々に不正入学は明らかになるが、顔を隠した謎めいた生徒会長に呼び出され、限られた生徒だけが進むことのできる「 AI 養成コース」に進むことを要望される。
さらに学園内にいる「アリエル」という名の迷子の少女を探し出すことを依頼される。
果たして「レムス」の情報の真偽は、生徒会長と「アリエル」の正体は……というお話。

表紙のイラストこそロリコン調の少女3人が描かれているだけだが、中身はよく出来た SF。
人に教えられなかったら、まず読んでなかったと思う。

それにしても作者の名前の元ネタはやはり『 ONE 』なのだろうか……。

笹生陽子『きのう、火星に行った。』(講談社文庫)

[ ISBN:4062750228: bk1 - jbook - amazon ]

斜に構えてクールぶっている小学6年生の少年を主人公におき、彼と彼をとりまく少年たちの成長を描いた短編。
熱く燃えていく主人公の疾走感が気持ちいい。
字が大きくペラペラなので、主人公同様の、ちょっとませた小学生が背伸びして読むのもよさそう。

滝本竜彦『 NHK にようこそ! 』(角川文庫)

[ ISBN:4043747020: bk1 - jbook - amazon ]

大学を中退しアパートに引きこもる青年、佐藤を主人公にした青春小説。
彼の前に清楚な少女「岬ちゃん」が現れ、彼を「ひきこもり」から救い出そうと言う。
そんな彼女をあしらい、自力で「ひきこもり」から脱出しようと奮闘する佐藤だが、挫折してばかり。
佐藤は岬と契約し、彼女のサポートを受けることになる。
しかし岬の行動には、内に秘めた本当の目的があった……。

オタク男やネットサーフィンの描写が「作者自身の実体験でなくちゃここまで書けないだろう」というほど秀逸で、共感を誘われる。
地の文でも、持ち出してくる言葉や文章のセンスが尋常でなく私にジャスト・フィットしてきて、ニヤニヤしてしまう。
ご近所の見慣れた風景がテレビ放送で映し出されているのを観たときに何故か喜んでしまうのと同じような感覚があるのだ。
少なくとも私にとっては、ずっと保管しておきたい本。

マンガ版は無理にストーリーを引き伸ばしている感があってグダグダだけど、原作はすっきり綺麗にまとまっている。

アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』(創元推理文庫)

[ ISBN:4488123015: bk1 - jbook - amazon ]

ロンドンで毒入りチョコレートによる毒殺事件が発生する。
一体犯人は誰なのか?
事件は警察から「犯罪研究会」に持ち込まれ、会員6人が1人ずつ真相の推理を披露していくことになる。
もっともらしいと思わされた推理は新事実とともに次々と覆っていく。
そして6人目の会員がついに真相にたどり着く……。
アイデアといい、6つの異なる視点を用意する力量といい、感心するばかり。
「古典的名作」の評判に偽りなし。

投稿者 Dormeur : 11:36 PM | コメント (2) | トラックバック