確かあれは中学生の頃だったと思う。
美術の時間、彫刻の実習があった。
250ml の缶ジュースくらいの大きさの直方体の石を彫って何か作れというやつだ。
何か楽に彫れるものはないかと思案した私が選んだ題材は、コウテイペンギンだった。
直立して首を肩に埋め寒さに耐えているコウテイペンギンは凹凸が少なくて彫りやすそうだったから。
しかし出来上がった作品は同級生には不評だった。
こんなのはペンギンではないという。
彼らの浅薄な知識にはコウテイペンギンという種はなかったのだろう。
単純に私がヘタクソだっただけだという冷静な意見は心にそっとしまっていただきたい。
そもそもコウテイペンギンは南極大陸を生活圏にするペンギンで、ペンギンの中でも最も体が大きい。
たいていのペンギンは南極のような極端に寒い場所ではなくて、南アメリカ大陸の南端とかニュージーランドとかのもう少し温暖な気候の場所に住んでいる。
しかしコウテイペンギンは何が彼らをそうさせるのか、わざわざ零下数十度の極寒環境で繁殖活動を行う。
その繁殖活動を描いたドキュメンタリー映画が『皇帝ペンギン』( La Marche d'Empereur )だ。
フランスの作品で、原題の意味は「皇帝の行進」である。
観に行ったのは先週の土曜日、梅田ガーデンシネマだったのだが、最後の回の上映開始の直前あたりに着いたらすでに満席。
運良く土曜日は追加のレイトショーがあったので、そちらの回で観ることにした。
しかし整理券入場順は既に70番台と半分以上後だった。
結構な人気である。
ここで上映されていたのはフランス語版。
上映館は結構あるのだがほとんどが日本語吹き替え版なので、客が集中してしまったのかもしれない。
映画は、コウテイペンギンを擬人化し台詞を宛がった物語仕立てだ。
「プロ野球珍プレー好プレー」のみのもんたみたいなものである。
いや勿論、遥かにこの映画の方が詩的だけれど。
冬になるとコウテイペンギンたちは、南極大陸の岩山に囲まれた繁殖地へ向かって行進を始める。
まるで何かに操られているかのように。
繁殖地に集まった彼らは交尾を行い、メスは卵を一つ産む。
餌のある海からは遥か離れているので、この間全員絶食だ。
卵が孵ってからの餌を確保すべく、メスは卵をオスに預け海へと行進を始める。
オスは足の間に卵を抱え、ひたすら寒さと飢えに耐え続ける。
押し競饅頭でブリザードに耐える彼らの姿は『八甲田山』を思い出さずにはいられない。この間に卵が孵ると、オスはヒナに胃の残留物や胃の粘膜を与えメスを待つ。
メスが帰って来ると今度はオスが海へと旅立つ。
メスの確保してきた餌を食べて育っていくヒナ。
このヒナがもう可愛いこと可愛いこと。
萌え死にそうです。
お持ち帰りしたくなること請け合い。
多分本物は臭いだろうけど。
ヒナが自分で海に入れるくらいに育ったところで、映画は終了である。
極端に厳しい環境で生命を育むコウテイペンギンのストイックな生き様を通して、高らかに生命の賛歌を歌い上げる。
コウテイペンギンも凄いが、それに付き合って極寒の中で撮影を成し遂げたスタッフも凄い。
全く大したもんだ。
ちなみに私が最もグッと来たのは、行進から脱落して見渡す限り白い世界を彷徨う一羽。
自分の未来の姿をそこに観るようで。
コメントする