プロ野球を見ていると、時にだらけたゲームに遭遇することがある。序盤で一方的な点差がつき、勝敗が決したと思えば、両チームの投手が毎回フォアボールを連発したり打ち込まれたりして、なおかつ得点打が出ない。再三のピンチで繰り返される投手交代。結局、ゲームは4時間かかって終了。残るは脱力感のみ。
そんな時思い出すのは、あのプロ野球記録だ。1946年7月26日、西宮球場で行われた大阪タイガース対パシフィックのゲームはわずか55分で終了し、1対0でタイガースが勝利した。十五年戦争の戦禍がまだ癒えない時代のこの記録は、未だ破られていない。球場で働いている人々にとっては、55分でゲームが終了すれば早く仕事を終えることが出来、嬉しくて堪らないであろう(歩合制で働いている売り子さんを除いて)。
しかし、コールドゲームでもない限り、9回までゲームが行われれば、短くても2時間はかかるのが普通である。果たして、日本プロ野球史上最短ゲーム時間55分の記録を破ることは可能なのだろうか。この記録を破る方法を考えてみよう。
コールドゲームではなく、9回までゲームが行われる場合、もっとも短くても、アウトを27+24=51で51とる必要がある。つまり、後攻側がリードして9回表を終了すれば、9回裏の攻撃が省略されるので、その分試合が短くなるわけだ。
では、打者一人あたり1分費やせばアウト51個とるのに51分となり、記録達成かというと、そう簡単ではない。なぜなら、イニングの間の攻守交代の時間も考慮しなければならないからだ。9回表まで、攻守交代は16回ある。どれだけ攻守交代を縮めようとしても、人間の走る速さを考えると守備位置につくまでに20秒くらいはかかると思われるから、それが16回繰り返されるならば20*16=320で320秒、すなわち5分20秒かかる。(投球練習など無用である。)記録を破るのに必要な総ゲーム時間・54分から5分20秒を引いて、48分40秒。これを、先攻9イニング、後攻8イニングに充てることになる。
そして、もちろん、得点が入らなければ勝ちも負けもない。野球は1点差あれば勝敗が決するのだから、両者の得点は1対0が理想的だ。4点も5点も得点する時間はないのだ。実際、55分の記録を持つゲームの得点も1対0である。問題は得点する方法だ。一球で後攻側の本塁打を放つことが出来るに越したことはないが、そううまく本塁打が打てる訳がない。そこで、このような方法を考えてみた。まず、後攻側の打者Aが打席の一番後ろに立つ。投手が一球投げて、打者が必ずバットを振る。そのバットにキャッチャーがミットを当てる。これで攻撃妨害、打者Aは出塁。次の打者Bの一球目、投手は適当な場所に暴投する。Aは投球前にあらかじめ走り始めておく。暴投した球を捕球した野手は、Aが本塁にまわって来るまで、野手の間でキャッチボールでもしておく。これで1点入る。
Aの出塁に20秒を見積もる。テイク・ワン・ベースの宣告を受けたAは1塁までもちろん全力疾走だ。正確な数値は失念したが、1塁から本塁までの道のりは100メートルほどである。100メートルを10秒台で走ることの出来る俊足のプレイヤーであれば、20秒あれば充分であろうが、余裕をもって30秒を用意しておこう。合計、Aが出塁してから得点するまで、50秒を費やすことになる。以上で、アウトを51個とるために使える時間は47分50秒ということに決まる。
ところで、効率よくアウトを得るには、各打者が初球を打ってアウトになるのが時間短縮の近道である。三振の場合投手が3球投げる時間が必要だし、走者になってアウトになるには、守備側に出塁するためのプレーと走者をアウトにするプレーが必要になって、余計な時間がかかってしまうからだ。内野手・外野手は1塁手を除いて全員前進守備の隊形をとる。打者はフライを上げるのは打球の滞空時間が勿体無いので、全部ゴロを打つ。ファウルを打たないよう、確実に内野のフェアゾーンに打球を転がさねばならない。もちろん投手は打者がゴロを打ちやすい球を投げる。ボール球はダメである。万一投手がとんでもないボール球を投げて来たら、打者はスクイズを図る時のように無理にでも内野に転がす。以上の方法でもって、打者はアウトになっていく。打者がアウトになれば、1塁手は即座にボールをピッチャーに返し、次の打者はすぐに打席に入る。
先に述べたように、47分50秒で51個のアウトであるから、一つのアウトには、47分50秒/51=56.27...(秒)で、およそ56秒使えることになる。返球・ボール交換・打者が打席に入る時間といったボールデッドの時間を考えても、充分に投球・打球・捕球・送球の一連のプレイをその時間内で行うことが出来ると思われる。
したがって、守備・攻撃において、以上を忠実に機械的に実行できれば、9回まで54分以内でゲームを行った上でプロ野球最短試合時間の記録を更新することが可能である。プロレベルの技能を持つプレイヤーなら、それは難しくないことだろう。各プロ野球団の担当者さん。消化試合でこんな八百長試合をしろとは言わないが、ファンサービスデーのイベントの一環として、この「記録への挑戦」を行ってみるのはいかがだろうか。
それにしても、こんなことを考えずに55分で試合をやりきった1946年の人々は、ある意味偉大である……。